債権法改正 要綱仮案 情報整理

第7 消滅時効

5 生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効

 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の請求権について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 4(1)に規定する時効期間を5年間とする。
(2) 1(2)に規定する時効期間を20年間とする。

中間試案

5 生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効
  生命・身体[又はこれらに類するもの]の侵害による損害賠償請求権の消滅時効については,前記2における債権の消滅時効における原則的な時効期間に応じて,それよりも長期の時効期間を設けるものとする。

(注)このような特則を設けないという考え方がある。

(概要)

 生命・身体の侵害による損害賠償請求権について,被害者を特に保護する必要性が高いことから,債権の消滅時効における原則的な時効期間よりも長期の時効期間を設けるとするものである。その対象は,生命・身体の侵害に限る考え方のほか,これらに類するもの(例えば,身体の自由の侵害)も含むという考え方をブラケットで囲んで示している。
 具体的な長期の時効期間の設定については,前記2でどのような案が採用されるかによって考え方が異なってくる。前記2で乙案が採用される場合には,一般の債権と不法行為による損害賠償請求権とで時効期間と起算点の枠組みが共通のものとなる(したがって,民法第724条の削除も検討課題となる。)ので,生命・身体の侵害による損害賠償請求権の発生原因が債務不履行であるか不法行為であるかを問わず,例えば,権利を行使することができる時から[20年間/30年間],債権者が債権発生の原因及び債務者を知った時から[5年間/10年間]という時効期間を設けることが考えられる。他方,前記2で甲案が採用される場合には,一般の債権と不法行為による損害賠償請求権とで時効期間と起算点の枠組みが異なるので,不法行為による損害賠償請求権について上記の例と同様の時効期間を設定した上で,債務不履行に基づく損害賠償請求権について生命・身体の侵害に関する時効期間をどのように設定するかを検討することが考えられる。
 他方,現状よりも長期の時効期間を設ける必要性はないという考え方があり,これを(注)で取り上げている。

赫メモ

 生命・身体という法益の重要性を考慮して、生命・身体の侵害による損害賠償請求権について、時効期間を長期化するものである。
 要綱仮案(1)は、不法行為に基づく損害賠償請求権の主観的起算点からの時効期間を5年に長期化し、要綱仮案(2)は、債務不履行による損害賠償請求権を想定して客観的起算点からの時効期間を20年に長期化するものである。結果として、生命・身体の侵害による損害賠償請求権については、不法行為、債務不履行のいずれを根拠とするものについても、(主観・客観両起算点の規律の表現は若干異なるものの、)時効期間は共通となる。

現行法


斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=債務者,時効を援用する当事者,B=債権者)
【安全配慮義務違反による損害賠償請求権の消滅時効は10年である】最高裁昭和50年2月25日判決・民集29巻2号143頁
 自衛隊Aの駐屯地において,昭和40年7月,大型車両が後退中に自衛隊員B´をはね死亡させた。Aは,B´の死亡直後,B´の遺族である父母に対して,公災補償金80万円を支給した。Bによる提訴は,昭和44年4月であった。
 国の義務は給与の給付義務にとどまらず,公務員に対し,国が公務遂行のために設置すべき場所・施設・器具等の設置管理,国・上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって,公務員の生命・健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っている。国が,不法行為規範のもとにおいて私人に対しその生命・健康等を保護すべき義務を負っているほかは,いかなる場合においても公務員に対し安全配慮義務を負うものではないと解することはできない。なぜなら,安全配慮義務は,ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において,当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであるからである。
 国が,公務員に対する安全配慮義務を懈怠し違法に公務員の生命・健康等を侵害して損害を受けた公務員に対し損害賠償の義務を負う事態は,その発生が偶発的であって多発するものとはいえず,国が義務者であっても,被害者に損害を賠償すべき関係は,公平の理念に基づき被害者に生じた損害の公正な填補を目的とする点において,私人相互間における損害賠償の関係とその目的性質を異にするものではないから,国に対する損害賠償請求権の消滅時効期間は,民法167条1項により10年と解すべきである。