債権法改正 要綱仮案 情報整理

第7 消滅時効

6 時効の完成猶予及び更新
(2) 強制執行等

 時効の中断事由(民法第147条ほか)及び停止事由について、同法第158条から第160条までの規律を維持するほか、次のように改めるものとする。
ア 次の(ア)から(エ)までに掲げる事由のいずれかがある場合には、当該(ア)から(エ)までに掲げる事由が終了した時(権利者が申立てを取り下げた場合又は当該(ア)から(エ)までに掲げる事由が法律の規定に従わないことにより取り消された場合にあっては、その時から6箇月を経過した時)までの間は、時効は、完成しない。
 (ア) 強制執行
 (イ) 担保権の実行
 (ウ) 民事執行法(昭和54年法律第4号)第195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
 (エ) 民事執行法第196条に規定する財産開示手続
イ アの場合には、時効は、当該アの(ア)から(エ)までに掲げる事由が終了した時から、新たにその進行を始める。ただし、権利者が申立てを取り下げた場合又は当該アの(ア)から(エ)までに掲げる事由が法律の規定に従わないことにより取り消された場合は、この限りでない。

中間試案

6 時効期間の更新事由
  時効の中断事由の規律(民法第147条ほか)を次のように改めるものとする。
 (1) 時効期間は,次に掲げる事由によって更新されるものとする。
  ウ 強制執行又は担保権の実行としての競売の手続が終了したこと(権利の満足に至らない場合に限る。)。ただし,当該手続が権利者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消されたときを除くものとする。
 (3) 上記(1)ウに該当するときは当該手続が終了した時から,上記(1)エに該当するときはその承認があった時から,新たに前記2又は4の原則的な時効期間と同一の時効期間が進行を始めるものとする。ただし,従前の時効期間の残存期間が原則的な時効期間より長い場合には,時効期間の更新の効力が生じないものとする。

7 時効の停止事由
  時効の停止事由に関して,民法第158条から第160条までの規律を維持するほか,次のように改めるものとする。
 (1) 次に掲げる事由がある場合において,前記6(1)の更新事由が生ずることなくこれらの手続が終了したときは,その終了の時から6か月を経過するまでの間は,時効は,完成しないものとする。この場合において,その期間中に行われた再度のこれらの手続については,時効の停止の効力を有しないものとする。
  オ 強制執行,担保権の実行としての競売その他の民事執行の申立て

(概要)

6 時効期間の更新事由
  民法第147条以下に規定されている時効の中断事由に対しては,ある手続の申立て等によって時効が中断された後,その手続が途中で終了すると中断の効力が生じないとされるなど,制度として複雑で不安定であるという指摘がある。本文は,こうした問題意識を踏まえて,その効果が確定的に覆らなくなり,新たな時効期間が進行を始める時点(同法第157条)を捉えて,時効の中断事由を再構成するものである。ここで再構成された事由は,従前と同様に取得時効にも適用可能なものと考えられる。なお,「時効の中断事由」という用語は,時効期間の進行が一時的に停止することを意味するという誤解を招きやすいと指摘されており,適切な用語に改めることが望ましい。ここでは,差し当たり「時効期間の更新事由」という用語を充てている。
 …
 本文(1)ウは,「差押え,仮差押え又は仮処分」(民法第147条第2号)に対応するものである。手続が取り消された場合をただし書で除外しているのは,同法第154条の規律を維持したものである。他方,仮差押えや仮処分は,その暫定性に鑑みて更新事由から除外している。
 …
 本文(3)は,更新後の時効期間を前記2又は4の原則的な時効期間と同一のものとするものである。これは,時効期間に特則が設けられている場合であっても,一たび時効が更新されたときには,その特則が置かれた趣旨は妥当しなくなるという考え方によるものである。もっとも,時効期間が更新されたために従前の時効期間の残存期間よりも新たに進行を始める時効期間の方が短くなることを避ける必要があるため,その場合には時効期間の更新の効力が生じないものとしている。


7 時効の停止事由
  時効の停止事由に関して,時効の中断事由の見直し(前記6)を踏まえた再編成等を行うものである。ここで再編成された事由も,従前と同様に取得時効にも適用可能なものと考えられる。
  本文(1)第1文は,現在は時効の中断事由とされている裁判上の請求(民法第149条),支払督促の申立て(同法第150条)などの事由を,新たに時効の停止事由とするものである。これらの手続が進行して所期の目的を達した場合(認容判決が確定した場合など)には,前記6(1)の更新事由に該当することになる。他方,その手続が所期の目的を達することなく終了した場合には,本文(1)第1文の時効停止の効力のみを有することとなる。この規律は,いわゆる裁判上の催告に関する判例法理(最判昭和45年9月10日民集24巻10号1389頁等)を反映したものである。本文(1)第2文は,これらの手続の申立てと取下げを繰り返すことによって時効の完成が永続的に阻止されることを防ぐため,本文(1)第1文の時効停止の期間中に行われた再度のこれらの手続については,時効停止の効力を有しないものとしている(後記(4)第2文と同趣旨)。

赫メモ

 要綱仮案イが、中間試案6(1)ウ、(3)に相当し、要綱仮案アが、中間試案7(1)オに相当しており、内容的にはほぼ同じである(中間試案概要の該当部分参照)。
 ただし、中間試案(3)本文では、新たに進行する時効期間を原則的時効期間とし、これに伴う手当てをただし書で設けたが、パブリックコメントを踏まえ、要綱仮案では、現行法での取扱いと同様、新たに進行する時効期間は、従前の時効期間と同じ時効期間であることを前提に、中間試案(3)ただし書に相当する規律は設けられていない(部会資料69A、24頁)。
 また、財産開示手続について、直接的には債権者の権利を満足させることを目的とした手続ではないが、債務名義を有する権利者による権利の実現に向けられた手続である上、仮差押えや仮処分のような手続の暫定性はないことからすれば、「差押え」と同様に取り扱うべきであるとして、これが加えられた(部会資料69A、18頁参照)。

現行法

(時効の中断事由)
第147条 時効は、次に掲げる事由によって中断する。
一 請求
二 差押え、仮差押え又は仮処分
三 承認

(差押え、仮差押え及び仮処分)
第154条 差押え、仮差押え及び仮処分は、権利者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消されたときは、時効の中断の効力を生じない。

(中断後の時効の進行)
第157条 中断した時効は、その中断の事由が終了した時から、新たにその進行を始める。
2 裁判上の請求によって中断した時効は、裁判が確定した時から、新たにその進行を始める。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=債務者,時効を援用する当事者,B=債権者)
C 【競売申立と裁判上の請求】最高裁平成8年9月27日判決・民集50巻8号2395頁
  住宅ローン融資を業とするAが不動産の買主Bに融資した住宅ローンについて,その不動産の売主であるCが連帯保証し,その連帯保証債務を被担保債権として,Dが所有する不動産上に根抵当権が設定されていた。昭和59年8月に,Bが住宅ローンについて期限の利益を喪失し,同年,Aが競売申立てをし,決定正本は,CDに送達された。昭和59年8月から5年経過後の平成1年10月に,AはBを相手取って貸金返還請求訴訟を提訴したところ,Bが消滅時効を援用した。
  抵当権の実行としての競売手続において,抵当権の被担保債権の存否・額の確定のための手続が予定されていないこと,執行裁判所が適正な換価を行うための手続を職権で進め,債権者の関与の度合いが希薄であることから,債権者が抵当権の実行としての競売を申し立て,その手続が進行することは,抵当権の被担保債権に関する民法149条の裁判上の請求又はこれに準ずる消滅時効の中断事由には該当しない。
  執行裁判所による債務者への競売開始決定正本の送達は,本来債権者の債務者に対する意思表示の方法ではなく,競売の申立ての対象となった財産を差し押さえる旨の裁判がされたことを競売手続に利害関係を有する債務者に告知し,執行手続上の不服申立ての機会を与えるためにされるものであり,送達がされたことが,直ちに抵当権の被担保債権についての民法153条の催告としての時効中断の効力を及ぼすものと解することはできないので,債権者が抵当権の実行としての競売を申し立て,その手続が進行すること自体は,民法147条1号の「請求」に該当せず,抵当権が連帯保証債務を担保するために設定されたものである場合にも,同法458条・434条による主債務者に対する「履行の請求」としての効力を生ずる余地がない。

C-2 【無剰余取消と時効中断】水戸地裁平成7年7月10日・金法1447号55頁
  C銀行がDに対して,信用保証協会Aの保証付きで融資し,AのDに対する求償権について,Dが抵当権を設定し,Bが連帯保証した。Dが支払を怠ったため,昭和59年,Aが代位弁済し,抵当権を実行したところ,平成1年無剰余取り消しとなった。Aが平成6年に,Bを相手取って提訴したところ,Bは,差押えは,民法154条の規定により時効中断の効力を生じないとして争った。
  民法154条が時効中断の効力を生じないとしている趣旨は,権利の実行行為の存在が否定されたと見るべきであるという点にある。本件競売の手続が取り消された理由は,単に剰余を生ずる見込みがないというに過ぎず,それにもかかわらず,差押債権者としては民事執行法63条2項の申出及び保証の提供をしてまで競売手続を続行すべき義務はなく,むしろ,権利の実行行為の存在が否定されたとは見るべきでない場合であると言うことができる。したがって,無剰余を理由として競売手続が取り消されたときは,民法154条の適用ない。