第7 消滅時効
時効の中断事由(民法第147条ほか)及び停止事由について、同法第158条から第160条までの規律を維持するほか、次のように改めるものとする。
ア 催告があったときは、その時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
イ 催告によって時効の完成が猶予されている間に行われた再度の催告は、アの規定による時効の完成猶予の効力を有しない。
7 時効の停止事由
時効の停止事由に関して,民法第158条から第160条までの規律を維持するほか,次のように改めるものとする。
(4) 民法第153条の規律を改め,催告があったときは,その時から6か月を経過するまでの間は,時効は,完成しないものとする。この場合において,その期間中に行われた再度の催告は,時効の停止の効力を有しないものとする。
本文(4)第1文は,民法第153条の「催告」について,実質的には時効の完成間際に時効の完成を阻止する効力のみを有すると理解されていたことを踏まえ,時効の停止事由であることを明記するものである。また,本文(4)第2文では,催告を重ねるのみで時効の完成が永続的に阻止されることを防ぐため,催告によって時効の完成が阻止されている間に行われた再度の催告は,時効停止の効力を有しないものとしている。催告を繰り返しても時効の中断が継続するわけではないとする判例法理(大判大正8年6月30日民録25輯1200頁)を反映したものである。
中間試案からの変更はない(中間試案概要の該当箇所参照)。
(催告)
第153条 催告は、六箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法若しくは家事事件手続法による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。
(A=債務者,時効を援用する当事者,B=債権者)
D 【催告後6カ月以内になされた再度の催告は,時効中断効を生じない】大審院大正8年6月30日判決・民録25輯1200頁
BのAに対する債権(商事債権)について,Bが毎年裁判外の催告をしていた事実をもって時効中断するとした原判決を破棄した事例。
債権者が単に催告をすれば,それだけで時効が中断するものではない。
E 【催告後6カ月以内に,債権の一部について提訴して裁判上の催告をしても,残部については消滅時効が完成する】最高裁平成25年6月6日・民集67巻5号1208頁
AはBに対する債務α(商事債務)を平成12年6月に承認した。Bは平成17年4月に催告をしたうえで,10月に,αの債務総額3億9000万円のうち5000万円について提訴したところ,平成21年にAからの相殺の抗弁が認められ,7500万円が認容された。Bはαの残部について提訴した。
明示的一部請求の訴えにおいて請求された部分と請求されていない残部とは,請求原因事実を基本的に同じくすること,明示的一部請求の訴えを提起する債権者としては,将来にわたって残部をおよそ請求しないという意思の下に請求を一部にとどめているわけではないのが通常であると解されることに鑑みると,明示的一部請求の訴えに係る訴訟の係属中は,原則として,残部についても権利行使の意思が継続的に表示されているものとみることができる。したがって,明示的一部請求の訴えが提起された場合,債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにしているなど,残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り,当該訴えの提起は,残部について,裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生ずるというべきであり,債権者は,当該訴えに係る訴訟の終了後6箇月以内に民法153条所定の措置を講ずることにより,残部について消滅時効を確定的に中断することができると解するのが相当である。
しかし,催告は,6カ月以内に民法153条所定の措置を講じなければ,時効の中断の効力を生じないのであって,催告から6カ月以内に再び催告をしたにすぎない場合にも時効の完成が阻止されることとなれば,催告が繰り返された場合にはいつまでも時効が完成しないことになりかねず,時効期間が定められた趣旨に反し,相当ではない。したがって,消滅時効期間が経過した後,その経過前にした催告から6カ月以内に再び催告をしても,第1の催告から6カ月以内に民法153条所定の措置を講じなかった以上は,第1の催告から6カ月を経過することにより,消滅時効が完成するというべきである。この理は,第2の催告が明示的一部請求の訴えの提起による裁判上の催告であっても異なるものではない。