第7 消滅時効
時効の中断事由(民法第147条ほか)及び停止事由について、同法第158条から第160条までの規律を維持するほか、次のように改めるものとする。
ア 当事者間で権利に関する協議を行う旨の書面による合意があったときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
(ア) 上記合意があった時から1年を経過した時
(イ) 上記合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
(ウ) 当事者の一方が相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の書面による通知をした時から6箇月を経過した時
イ アの合意又は通知がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意又は通知は、書面によってされたものとみなす。
ウ 当事者は、アの規定によって時効の完成が猶予されている間に、改めてアの合意をすることができる。ただし、アの規定によって時効の完成が猶予されなかったとすれば時効期間が満了すべき時から通じて5年を超えることができない。
エ 催告によって時効の完成が猶予されている間に行われたアの合意は、時効の完成猶予の効力を有しない。アの規定によって時効の完成が猶予されている間に行われた催告についても、同様とする。
7 時効の停止事由
時効の停止事由に関して,民法第158条から第160条までの規律を維持するほか,次のように改めるものとする。
(6) 当事者間で権利に関する協議を行う旨の[書面による]合意があったときは,次に掲げる期間のいずれかを経過するまでの間は,時効は,完成しないものとする。
ア 当事者の一方が相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の[書面による]通知をした時から6か月
イ 上記合意があった時から[1年]
(注)上記(6)については,このような規定を設けないという考え方がある。
本文(6)は,当事者間の協議を時効の停止事由とする制度を新設するものである。これは,当事者間で権利に関する協議が継続している間に,時効の完成を阻止するためだけに訴えを提起する事態を回避できるようにすることは,当事者双方にとって利益であることによる。この事由の存否を明確化する観点から,協議の合意が存在することを要求した上で,書面を要するという考え方をブラケットで囲んで提示している。また,時効障害が解消される時点を明確化する観点から,協議続行を拒絶する旨の通知がされた時という基準を用意した上で,ここでも書面を要するという考え方をブラケットで囲んで提示している(本文(6)ア)。さらに,実際上,協議されない状態が継続する事態が生じ得ることから,これへの対応として,当事者間で権利に関する協議を行う旨の合意があった時から[1年]という別の基準も用意している(本文(6)イ)。協議が実際に行われていれば,その都度,この合意があったと認定することが可能なので,本文(6)イの起算点もそれに応じて更新されることになる。以上に対し,当事者間の協議を時効の停止事由とする制度を設ける必要性はないという考え方があり,これを(注)で取り上げている。
要綱仮案は、当事者間の協議を時効の停止事由とする制度を新設することとしている。当事者間で権利に関する協議が継続している間に、時効の完成を阻止するためだけに訴えを提起する事態を回避できるようにすることは、当事者双方にとって利益であるからである(中間試案概要)。
中間試案の内容が維持され、さらに、当事者が1年未満の協議期間を合意した場合、合意が繰り返された場合、及び、催告による時効完成猶予が競合した場合に関する規律が付加された(部会資料80-3、5頁)。