債権法改正 要綱仮案 情報整理

第8 債権の目的(法定利率を除く。)

1 特定物の引渡しの場合の注意義務(民法第400条関係)

 民法第400条の規律を次のように改めるものとする。
 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の当該債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

中間試案

1 特定物の引渡しの場合の注意義務(民法第400条関係)
  民法第400条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 契約によって生じた債権につき,その内容が特定物の引渡しであるときは,債務者は,引渡しまで,[契約の性質,契約をした目的,契約締結に至る経緯その他の事情に基づき,取引通念を考慮して定まる]当該契約の趣旨に適合する方法により,その物を保存しなければならないものとする。
 (2) 契約以外の原因によって生じた債権につき,その内容が特定物の引渡しであるときは,債務者は,引渡しまで,善良な管理者の注意をもって,その物を保存しなければならないものとする。

(注)民法第400条の規律を維持するという考え方がある。

(概要)

 本文(1)は,特定物の引渡しの場合の注意義務(保存義務)の具体的内容が契約の趣旨を踏まえて画定される旨を条文上明記するものである。契約によって生じた債権に関して,保存義務の内容が契約の趣旨を踏まえて画定されることには異論がない。それを条文上も明らかにするものである。
 本文(1)の「契約の趣旨」とは,合意の内容や契約書の記載内容だけでなく,契約の性質(有償か無償かを含む。),当事者が当該契約をした目的,契約締結に至る経緯を始めとする契約をめぐる一切の事情に基づき,取引通念を考慮して評価判断されるべきものである。裁判実務において「契約の趣旨」という言葉が使われる場合にも,おおむねこのような意味で用いられていると考えられる。このことを明らかにするために,契約の性質,契約をした目的,契約締結に至る経緯や取引通念といった「契約の趣旨」を導く考慮要素を条文上例示することも考えられることから,本文ではブラケットを用いてそれを記載している。
 本文(2)は,契約以外の原因によって生じた債権については,特定物の引渡しの場合の保存義務につき現行の規定内容を維持するものである。
 以上に対して,契約の趣旨に依拠するのみで保存義務の内容を常に確定できるかには疑問があるとして,本文(1)の場合及び本文(2)の場合を通じて,一般的に保存義務の内容を定めている現状を維持すべきであるという考え方があり,これを(注)で取り上げている。

赫メモ

 民法400条は、特定物の引渡しが契約によって生じたものである場合には、当該契約と無関係に保存義務の内容や程度が定まるわけではなく、当該契約の趣旨に照らして定まる善良な管理者の注意をもってその物の保管義務を負うものと解されており、要綱仮案は、その旨を明らかにするための規律である。
 要綱仮案は、「契約の趣旨に照らして定まる」という中間試案の表現を用いず、「契約及び取引上の社会通念に照らして定まる」の表現を採用するが、意味内容は同じである。「契約の趣旨に照らして」とは、「契約の内容(契約書の記載内容等)のみならず、契約の性質(有償か無償かを含む。)、当事者が契約をした目的、契約の締結に至る経緯を始めとする契約をめぐる一切の事情を考慮し、取引通念をも勘案して、評価・認定される契約の趣旨に照らして」という意味であることを前提としていたが、要綱仮案の「契約及び取引上の社会通念に照らして」もこれと同様であるとの理解を前提にしている(部会資料79-3、7頁)。

現行法

(特定物の引渡しの場合の注意義務)
第400条 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=債務者,B=債権者)
@ 【善管注意義務違反の例】 東京高裁平成15年10月6日判決・判時1862号158頁
  チューンナップを請け負った事業者が依頼者の要求によって代車を提供したところ,代車が盗難にあったため,損害賠償(310万円)を求めた事例。
  代車の貸与は使用貸借契約であり,借主は善管注意義務を負うところ,一見して相当価値があると認識しうる自動車を丸4日間,シートもかけずに,公道近くにある自宅の駐車場に,障害物となる物も置かずに駐車した点は,善管注意義務違反がある。

A 【自己の財産に対すると同一の注意義務違反の例】 東京地方裁判所平成13年1月25日判決・金判1129号55頁
  自宅改築のため,池で飼っていた錦鯉等を一時保管してもらっていたところ(保管料月8万円),死亡したため,損害賠償(5600万円)を求めた事例。
  自宅改築のために何として錦鯉等を搬出してもらわなければならなかったにもかかわらず,高額の保管料による寄託を拒絶する等なるべく保管に要する費用を安く抑えようとし,しかも,予定数以上の錦鯉がいたため受寄者から責任を持てない旨念押しされていることから考えて,せいぜい自己の物に対するのと同一の注意義務で足りるというべきである。本件事案において受寄者に責任は認められない。