債権法改正 要綱仮案 情報整理

第8 債権の目的(法定利率を除く。)

2 選択債権(民法第410条関係)

 民法第410条の規律を次のように改めるものとする。
 債権の目的である給付の中に不能のものがある場合において、その不能が選択権を有する者の過失によるものであるときは、債権は、その残存するものについて存在する。

中間試案

5 選択債権(民法第406条ほか関係)
  選択債権に関する民法第406条から第411条までの規律を基本的に維持した上で,次のように改めるものとする。
 (1) 民法第409条の規律に付け加えて,第三者が選択をすべき場合には,その選択の意思表示は,債権者及び債務者の承諾がなければ撤回することができないものとする。
 (2) 民法第410条を削除するものとする。
 (3) 選択の対象である給付の中に履行請求権の限界事由(後記第9,2に掲げる事由をいう。)があるものがある場合(第三者が選択をすべき場合を除く。)において,その事由が選択権を有する当事者による選択権付与の趣旨に反する行為によって生じたときは,その選択権は,相手方に移転するものとする。

(概要)

 本文(1)は,選択債権につき第三者が選択をすべき場合(民法第409条)に関して,当該選択の意思表示を撤回するための要件につき,異論のない解釈を条文上明記するものである。
 本文(2)は,民法第410条を削除するものである。選択の対象である給付に履行請求権の限界事由(その意義につき,後記第9,2)に該当するものがあっても,それによって選択の対象は当然には限定されないものとして,不能となった対象を選択して契約の解除をするなど選択権付与の趣旨に即したより柔軟な解決を可能とするためである。
 本文(3)は,選択(第三者が選択権を有する場合を除く。)の対象である給付につき,履行請求権の限界事由が選択権者による選択権付与の趣旨に反する行為により生じたときは,選択権が相手方に移転する旨の新たな規定を設けるものである。このような場合には,もはや選択権者に選択権を保持させることは相当でなく,選択権を相手方に移転することが利害調整として適切であると考えられることによる。

赫メモ

 民法410条は、選択債権の対象である複数の給付のうちの一部が不能である場合には、その不能の給付を選択肢から除外することを原則としつつも、選択権者でない当事者の過失によって給付が不能となった場合には、その不能の給付を選択する余地を認め、事案の柔軟な解決を図ろうとするものである。
 もっとも、当事者双方の過失によらないで給付が不能となった場合においても、選択権者でない当事者はもともと選択権の行使に従わざるを得ない立場になったのだから、選択権者の選択権を奪わずに、不能の給付を選択する余地を認めることによって、事案の柔軟な解決を図るのが合理的であるし、民法410条2項の趣旨とも矛盾しないと考えられる。
 また、当事者双方及び第三者である選択権者の過失によらないで給付が不能になった場合も、上記と同様に、第三者の選択権を奪わずに、不能の給付を選択する余地を認めるのが合理的であると考えられる。
 要綱仮案は、以上の趣旨に基づき現行法の規律を変更するものである(部会資料68A、41頁)。

現行法

(不能による選択債権の特定)
第410条 債権の目的である給付の中に、初めから不能であるもの又は後に至って不能となったものがあるときは、債権は、その残存するものについて存在する。
2 選択権を有しない当事者の過失によって給付が不能となったときは、前項の規定は、適用しない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【選択債権の例】最高裁昭和42年2月23日判決・民集21巻1号189頁
  340坪の土地のうちの表道路に面した50坪を賃貸する契約が成立したが,地主が場所を特定しなかったため,借地人が特定して引渡しを求めた事例。
  本件債務は選択債務に当たるので,選択債務に関する規定の適用がある。

A 【選択債権の例】最高裁昭和55年9月30日判決・判時981号61頁
  100坪のうち西側半分50坪を売買する契約を締結したが,範囲は特定されなかった。買主が売主に対して,特定するように通知したが,売主が特定しなかったため,買主が処分禁止仮処分の申立てをしてすでに分筆している50坪に特定したとして移転登記等を請求した事例。
  本件売買契約について,民法406条以下を適用した原判決は正当である。