債権法改正 要綱仮案 情報整理

第9 法定利率

2 金銭債務の損害賠償額の算定に関する特則(民法第419条第1項関係)

 民法第419条第1項の規律を次のように改めるものとする。
 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、当該債務につき債務者が遅滞の責任を負った時の法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、その約定利率による。

中間試案

4 法定利率(民法第404条関係)
 (2) 法定利率の適用の基準時等
  イ 金銭の給付を内容とする債務の不履行については,その損害賠償の額は,当該債務につき債務者が遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率によるものとする。
  ウ 債権の存続中に法定利率の改定があった場合に,改定があった時以降の当該債権に適用される利率は,改定後の法定利率とするものとする。

9 金銭債務の特則(民法第419条関係)
 (1) 民法第419条の規律に付け加えて,債権者は,契約による金銭債務の不履行による損害につき,同条第1項及び第2項によらないで,損害賠償の範囲に関する一般原則(前記6)に基づき,その賠償を請求することができるものとする。
 (2) 民法第419条第3項を削除するものとする。

(注1)上記(1)については,規定を設けないという考え方がある。
(注2)上記(2)については,民法第419条第3項を維持するという考え方がある。

(概要)

4 法定利率(民法第404条関係)
 (2) 法定利率の適用の基準時等
   本文イは,民法第419条第1項本文を改め,金銭の給付を目的とする債務の不履行については,その損害賠償の額は,当該債務につき債務者が遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率によることとしている。なお,同項ただし書は維持することを前提としている。
   本文ウは,法定利率が適用される債権が存続している間に法定利率の改定があった場合に,当該債権に適用される利率も改定するものとしている。

9 金銭債務の特則(民法第419条関係)
  本文(1)は,民法第419条第1項及び第2項の規律を維持しつつ(同条第1項に,変動制による法定利率の適用の基準時を付加することにつき,前記第8,4参照),契約による金銭債務の不履行については,同条第1項及び第2項によらずに,前記6(損害賠償の範囲についての一般原則)に基づき,不履行による損害の賠償を請求することができるとするものである。金銭債務の不履行による損害賠償につき,同条第1項及び第2項は利息に関しては証明を要せずに請求できるものとしている。他方,判例は,同条第1項所定の額を超える損害の賠償(利息超過損害の賠償)を否定している(最判昭和48年10月11日判時723号44頁)。しかし,諾成的消費貸借に基づく貸付義務の不履行の場面などを念頭に,利息超過損害の賠償を認めるべき実際上の必要性が存在するとの指摘があり,また,流動性の高い目的物の引渡債務を念頭に,非金銭債務と金銭債務とで,損害賠償の範囲につきカテゴリカルに差異を設ける合理性は乏しいとの指摘がある。そこで,この判例法理を改めるものである。
  他方,契約以外を原因とする金銭債務については,損害賠償の範囲に関する独自のルールを設けずに解釈に委ねることとの関係で(前記6の(概要)欄参照),金銭債務の不履行による利息超過損害を請求することの可否も,引き続き解釈に委ねるものとしている。
  本文(1)については,不履行による損害の特定が困難であるという金銭債務の特殊性を踏まえると上記判例には合理性があるとして,このような規定を設けないとの考え方があり,これを(注1)で取り上げている。
  本文(2)は,金銭債務の履行遅滞についても債務不履行の一般原則(前記1(2)(3))により免責され得ることを前提に,民法第419条第3項を単純に削除するとするものである。同項は,金銭債務の不履行につき,「不可抗力をもって抗弁とすることができない。」とし,この解釈として,金銭債務の不履行については一切の免責が認められないものとされている。この点については,比較法的にも異例なほど債務者に厳格であると批判されているほか,大規模な自然災害等により債務者の生活基盤が破壊され地域の経済活動全体に甚大な被害が発生して,送金等が極めて困難となった場合でも履行遅滞につき一切免責が認められないというのは,債務者に過酷であり,具体的妥当性を欠く場合があるとの指摘があることを踏まえたものである。
  本文(2)については,実務において反復的かつ大量に発生する金銭債務につき逐一免責の可否を問題にすることは紛争解決のコストを不必要に高めるおそれがあることなどを理由に,民法第419条第3項を維持するとの考え方があり,これを(注2)で取り上げている。

赫メモ

 要綱仮案の規律は、民法419条1項の規律を維持しつつ、法定利率につき変動制を採用することに伴い、どの時点の法定利率が適用されるのかを明らかにするものであり、中間試案4(2)イの規律と同じである(中間試案概要の該当部分参照。中間試案4(2)ウの規律を設けることが見送られ、債務者が遅滞の責任を負った後に法定利率の変動があっても適用される利率に変更がないことについては、要綱仮案1のメモ参照)。
 また、中間試案9において、契約による金銭債務の不履行につき、損害賠償の範囲についての一般原則に基づき、不履行による損害の賠償を請求することができるとするものとする規律を設けることとされていたが、要綱仮案では見送られた(部会資料68A、43頁)。

現行法

(金銭債務の特則)
第419条 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

【悪意の不当利得者の利息の利率】 最高裁平成19年2月13日判決・民集61巻1号182頁
 貸金業者の過払金に対する遅延損害金の利率が争われた事件。
 商行為の貸付に係る債務の弁済金について,過払金として不当利得として返還する場合に,悪意の受益者が付すべき民法704条の利息は年5%である。なぜなら,商法514条の適用される債権は,商行為によって生じたもの又はこれに準じるものでなければならないところ,過払金の不当利得返還請求権は,利息制限法の規定によって発生する債権であり,営利性を考慮すべき債権ではないためである。