口蓋裂の歯科矯正治療の難しさ(瘢痕組織と下顎骨と成長の関係)
症例1:左側唇顎口蓋裂(初診時=7歳5ヶ月)
口蓋裂によって、上顎に割れ目が生じるわけで、これを外科的に引き寄せてわからないようにする手術(口蓋形成術、閉鎖術)が行われるわけです。しかし副作用と言いますか、これにより傷痕の組織(瘢痕組織という)がどうしてもできてしまいます。また、引き寄せられることにより上顎の歯槽骨は変形します。
さて、瘢痕組織は伸び縮みができない組織です。難しいことを言うと、組織の中に伸び縮みする繊維が入っていません。このため、上顎骨が前後左右に成長しようとしても、これを邪魔します。難しい言葉で言うと、上顎骨の成長阻害を起こします。
また、口蓋(上顎にある口の天井部分=鼻と口を分隔てている板状の部分)が浅くなるため、おのずと舌が下方に落ち、下顎枝列の中にはまりこみ、下顎を前方側方へ押し出すように働くため下顎骨の成長が旺盛になる傾向があります。
一度まとめます。唇顎口蓋裂の症例では、上顎骨は劣成長で、下顎骨は劣成長になる場合が多いわけです。
これに、身体の成長が加わります。身長が伸びる時に、下顎骨はそれに比例して伸びてゆくのです。
7歳9ヶ月 |
この間に腸骨移植をしております。 右の写真は、腸骨移植1ヶ月。 |
7歳11ヶ月 |
8歳11ヶ月 |
移植部の骨ができてきたので、第1期治療。 (右の写真) 上顎;後ろに倒れている中切歯をリンガルアーチで唇側へ。 下顎:側切歯と犬歯の間にスペースがあり、下顎前歯の唇側傾斜もありますので、プレートで舌側へ移動。
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9歳0ヶ月 |
11歳1ヶ月 |
しかし、上顎の瘢痕組織が引っ張る力と思春期成長で反対咬合が戻ってきました。 この患者さんでは、下顎の成長量や成長方向が良いので手術が必要なケースにはなりませんが・・・。 |
12歳5ヶ月
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唇顎口蓋裂でなくても、反対咬合が戻るのは、下顎骨の成長量による場合があります。
末端肥大症という病気をご存じですか? 成長ホルモンが出過ぎて、身長が伸びすぎると反対咬合になりやすくなります。体の大きなプロ野球選手、プロレスラーで見たことがあるでしょう? 「ナンダ、コノヤロウ!」とか言う人もそうです。
唇顎口蓋裂では、口蓋を縫い合わせることによって、下顎骨過成長を助長する可能性が高くなることを知っておいてください。
「どうやったら、後戻りを防げますか?」というご質問も良く受けますが、お答えとしては「身長を伸ばさなければ良いわけですが、それは、ご飯を与えない、寝かさない、家に閉じこめる、ということですよ。」と、私がお話すると、親御さんは「それは無理ですね。」と、ご理解して頂けます。
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