三線 桃売アン小(むむういあんぐゎー)

(三線をクリックしてみてください。メロディが聞こえてくるかも……)
干瀬節」で紹介した「綛掛の踊り」は、美しい紅型の打掛を片肌脱ぎにした女性が踊るものですが、沖縄の踊りのお約束では、無地の着物に紅型の打掛、という服装の女性は上流階級、江戸時代の日本で言えば武家と公家を一緒にしたクラスをあらわします。
実は琉球王国時代の沖縄、上流階級の女性といえどもちゃんと働いて生産活動にたずさわっていたでのす。
女性としては、同じ織るならやっぱり愛する男性のために作ってあげるのが、一番張り合いがあるというものでしょうが。

で、もちろん、農家の女性たちも、好きな男のためにせっせと糸を紡いで染めて、布を織って着物を作ってあげるわけですが、忙しくてそこまで手間がかけられない女性も、織られた布を買って、それを仕立ててあげるくらいのことはするわけで、それがこの「桃売アン小」という民謡の世界。普通は男性が加わってデュエットでうたうようなのですが、女性側のセリフだけでも唄としてはなりたちます。

桃売やい我んね サユン布買うてえくとぅ
此りし着物縫やーい かなしアヒ小に 我ね 着しゆん

此りし着物縫やーい 着りぬ余ゆくとぅ
我身ぬ着物ぬ袖に 付きてぃ我ね着ゆん 此ぬ 着りや

此りし着物縫やーい アヒ小に着しゆくとぅ
今からぬ後や 他所とぅ毛遊び すなようやー
(むむうやいわんね さゆんぬぬこぉてぇくとぅ)
(くりしちんのやーい かなしあひぐゎーに わね くしゆん)

(くりしちんのやーい ちりぬあまゆくとぅ)
(わみぬちんぬすでぃに ちきてぃわねちゆん くぬ ちりや)

(くりしちんのやーい あひぐゎーにくしゆくとぅ)
(なまからぬあとぅや ゆすとぅもーあしび すなようやー)
意味:
桃を売ったお金で 布を買うの
これで着物を縫って、大好きな彼に着せてあげるの

これで着物を縫って 余った布は
わたしの着物の袖に付けて わたしが着るの

これで着物を縫って 彼に着せてあげるから
これからはよそで毛遊びなんか しないでちょうだい、ねっ。

実は桃といっても、昔の沖縄では、白くて大きな桃のことではなくて、「楊梅(ヤマモモ)」のことをさしました。昔は春になると、沖縄中部の農家の娘さんたちが、今のコザのあたりにあったヤマモモ林から摘んできたヤマモモを大きな籠に入れ、頭に乗せてはるばる首里や那覇まで売りに来たんだそうです。

夜の明けきらないうちに家を出て、ハブに用心しながら林でヤマモモを摘み、首里・那覇まで三里あまりの道をてくてく歩いて売った山桃のお金をためて、那覇の市場で布を買って……そりゃやっぱり、できた着物には、糸つむぎから手間をかけたのと同じくらいの思い入れがこもります。今どきの「手編みのセーター」と同じ、いやそれ以上の気持ちがこもってるんですもの、男としても、心して着なくちゃ、あとがコワイ(笑)。

[参考]
「おきなわの歌と踊り」川平朝申著 月刊沖縄社
「料理沖縄物語」古波蔵保好著 朝日文庫


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