シャンハイ・ナイト [DVD] シャンハイ・ナイト (製作年度: 2003年)
レビュー日:2009.8.23
更新日:2009.10.29
評価:★★★★★
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解説(Yahoo映画より):
1880年代、アメリカ西部の町。ここで保安官をしていたチョンのもとに中国にいる父親が殺され、皇帝の印が盗まれたとの報せが届く。その報せを寄こしたチョンの妹リンは、そのまま犯人を追ってロンドンに向かった。父の復讐と妹の身を守るためチョンもまたロンドンへ向かう決意をする。彼はロンドンまでの旅費を受け取るためニューヨークにいたかつての相棒のロイのもとを訪ねる。お調子者のロイも、チョンの話を聞き一緒にロンドンまで同行することに。船に乗り無事ロンドンに到着した2人は、さっそくリンの行方を捜すのだったが…。


「ヌーン」とセットでみるとさらにオイシイ

ヌーン」が開拓時代の西部、「ナイト」が世紀末ロンドンを舞台にしたその雰囲気の対比が面白いし、「ヌーン」では清朝近衛兵のウェン(ジャッキー)がまったく異文化のアメリカ西部に放り込まれてとまどう姿が描かれていたのに対し、「ナイト」ではロイ(オーウェン)がかつての宗主国イギリスに対してアメリカ人意識をむき出しにするところが面白い。

特にバッキンガム宮殿の近衛兵を前にして、悪戯心を抑えきれないロイと、元同業者(笑)としての敬意からそれを止めようとするウェンのシーンは見物。

ラスボーン卿(アイダン・ギレン)の描き方も、イギリス貴族の嫌らしさがよく出てました。本でいっぱいの図書室の裏にアジアの植民地から分捕った(?)お宝をいっぱい隠しているところとか(図書室にもしっかり「カーマ・スートラ」隠してるんだけどw)……最後の対決で、ウェンの取り落とした剣を何度も拾って投げ与えるところも、騎士道精神とか紳士的というより、獲物をいたぶる猫みたいだったし。

ドニー・イェンもよかった。ジャッキーとの対決は確かにもうちょっと見たかった……
船上の対決シーンでの、ドニーのスピード感とキレはハンパじゃない。そりゃジャッキー勝てないでしょ。善戦はしてたけど。
特にあの棒術の冴えはすごいです。NGシーンで防ぎ損ねて思い切り脳天に一撃くらってたジャッキーがカワイソウ。(^^;
ルックスは好みじゃないけど、棒を小脇に構えたドニーは確かに惚れ惚れするほどカッコイイのでした。

ウェンとロイの関係も、「ヌーン」では最悪の出会い方をしたふたりがよんどころなく行動をともにしていくうちに、だんだん友情を深めていく過程を描いたのに対し、「ナイト」では気の置けない親友という間柄ながら、いろんな感情の行き違いやらウェンの妹の出現によるひと波乱で揺さぶられる友情が、次々と襲い掛かる危機をふたりで乗り越えることによってさらに堅固なものになっていく、というかたちで描かれています。

ウェンの「ローイ!」という呼びかけがまたいいのよね。なんか愛情を感じる(爆)。友だちとしてはイイやつでも、妹の交際相手としてはちょっと……と思ってた彼が、ふたりして敵の手に落ちて絶体絶命、という時についに妹と付き合うのを認め、だけど
"if you break her heart, I will break your legs"
なんて言うせいいっぱいのお兄ちゃんぶりがまたぐっときたりして(笑)。

それにしても、「ナイト」でのウェンの報われなさときたら……(笑)
「ヌーン」で命がけで救ったお姫様には振られ、更生したと信じてた親友は自堕落な生活に逆戻りしたあげく預けておいた金を使い込み、やっとの思いで敵の手から救出した妹には縛めをほどいてやったとたんに「遅い!」とひっぱたかれる……
トドメはあれでしょう。命がけの働きで「皇帝の印」(たぶん「三国志」にも出てきた「伝国の璽」がモデルとなってると思う)を奪還して本国に送り届けたのに、その後30年もたたないうちに清朝そのものがなくなってしまうんだよね。
あまりに報われないウェンが不憫だ……(^^;
本人はいたって楽天的に、次々と新しい事態に順応して生きていってるみたいなのが救いだけど。


【ここが美味しい名シーン】

「ナイト」でいちばん好きなのは、ラズボーン卿の屋敷を脱出してから「枕投げ」シーンに突入するあたりの展開。
ロイとリンの仲が急接近するのが面白くないウェン、父を亡くした兄妹として自分が家長の責任を果たさねば、とリンに説教するけど反発されただけで逆効果。
(北京時代は相当ヘタレな兄ちゃんだったんだろうなぁ。妹に完全にナメられてます)
おまけにロイの悪口言ったのを本人に聞かれて友情にも亀裂が……ああああ。

ホテルのバーでのシーンはふたりの力関係の微妙な変化も見えて面白い。

「ヌーン」の時は生まれてはじめて異文化に放り込まれ、右も左もわからないウェンにアメリカ人の「way of life」を手ほどきしたのはロイでした。(馬の乗り方とか銃の撃ち方とか……)
でも「ナイト」になるとウェンはすっかり新世界に適応し、保安官としての責任もちゃんと果たしてるし、ロイの口から出まかせの言葉にも振り回されっぱなしではなくちゃんとツッコミ返してる。
(それでも結局言いくるめられてる感はあるけど)
「ヌーン」から「ナイト」の間で、あんまり変わってないロイと人間的に格段の成長を遂げたウェンの差がこのあたりで歴然としてくるし、それを敏感に感じ取ったロイがとどめの一撃とも言うべきウェンの陰口で深ーく傷ついたのも無理はない。

で、ウェンも自分の言葉がロイを傷つけてしまったことに気づくわけです。「ヌーン」でロイの陰口を聞いてしまって、アメリカで得たはじめての友だちに裏切られた絶望感を味わったことがあるウェンには、ロイの気持ちがよくわかる。それに、妹の身を案じるあまりとはいえ、自分のやったことが仁義にもとる行為だったことも自覚してる。(本当に友だちを思うなら、ちゃんと本人に欠点を指摘してあげるべきだし、面従腹背ってのは東洋人的価値観からすると最も卑怯なことだしね)
だから、ロイの部屋でキレイどころのお姉ちゃん達と一緒に待ち伏せして、素直に「悪かった」と謝るウェン。その謝罪を拒絶したロイにウェンが後ろから二度も枕を投げつける場面は、なんとかしてロイに自分の気持ちを伝えたい、というウェンの心情が見えるようで、本当にいいなーと感じる。

その後のおバカな枕投げシーンは笑うしかないけど……(^_^;)


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