オーストラリア [DVD] オーストラリア (製作年度: 2008年)
レビュー日:2010.1.16
更新日:
評価:★★★
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解説(Yahoo映画より):
映画『ロミオ&ジュリエット』『ムーラン・ルージュ』のバズ・ラーマン監督が、壮大なオーストラリアの自然を舞台に描く運命的な愛の物語。主演は『ムーラン・ルージュ』に引き続きバズ監督作品参加となるニコール・キッドマンと映画『X-MEN:ファイナルディシジョン』のヒュー・ジャックマン。広大なオーストラリア大陸のロケーションや、主要キャストをオーストラリア出身者で固めるなど、バズ監督のこだわりが随所に見ることができる。


オーストラリアにとっても日本にとっても辛い話

CMなんかちらっと見た印象では、気位の高い女が野生児のあらくれ男と出会い、よんどころない事情で行動をともにしていくうちに反発がじょじょに愛情へと……という恋愛モノの王道。「風とともに去りぬ」とか「アフリカの女王」とか……この手の映画は今までにもたくさんありました。

オーストラリアに居ついたまま戻ってこない夫を連れ戻しに行ったレディ・サラ・アシュレイが対面したのは変わり果てた夫の遺体と荒れ果てた牧場。そこを立て直すためには、放牧していた牛を集めて追い立て、遠く離れた港に停泊している船に積み込まなければならない。
サラは夫が信頼していた牛追いドローヴァーの協力を得て、アボリジニの男性と女性、混血の少年、飲んだくれの会計士、コックの中国人とともに過酷な牛追いの旅に出る……

で、クライマックスは困難な旅に見事成功し、ヒロインはむさくるしい牛追い男から見違えるようにダンディな男に変身したドローヴァーと愛を確かめ合ってめでたしめでたし……

かと思ってたら、ここまでの話は前半で終了。えっ?

こっからの話が実は長い。せっかく結ばれたふたりも生き方の違いのギャップは埋め難く、アボリジニと白人との混血少年が種族の伝統に従って旅に出る、と言い出したときの対応をめぐって意見の相違は決定的となって亀裂が入り、うわー「風とともに去りぬ」みたいなバッドエンドか、と思わせる展開。
オマケに時代は日本の真珠湾攻撃にはじまる第二次世界大戦へと突入し、いよいよ舞台となったダーウィンの町にも日本軍の爆撃機が迫ってくる……
このへんのくだりは日本人としては見てて辛い。
実はオーストラリアにはペンフレンド(今はメル友)がいて、彼女との話題づくりにもなるかな、と思って見たんだけど(じゃなきゃこんな「王道恋愛モノ」なんて見ない)、見終わってからどうメールに書いたらいいんだ、と悩んでます。
(やっぱ「知りませんでした。ゴメンなさい」と書くしかないんだろうなぁ)

物語は一応アボリジニの魔術師(少年の祖父)の力でハッピーエンドになります。でも一抹の後味の悪さは、どうにも消えるものじゃありませんでした。

でもオーストラリアの広大な自然は確かに魅力的。


【ここが美味しい名シーン】

ま、やっぱり、牛追いの旅に成功した後、ダーウィンの慈善舞踏会に招待されたヒロインの前に、ドレスアップしたドローヴァーが現れるシーンでしょうね。
始めの出会いから牛追い道中でも、無精ヒゲにきったない服装で思いっきりむさくるしかった彼が、ヒゲを剃り髪を整え、真っ白なジャケットというまるで王子様みたいな服装で登場するんですもの。女性なら思わず目がハートになってしまう(笑)。
(まぁその後またもとのむさくるしいスタイルに戻っちゃうんですが)

この映画が通常の恋愛モノと違うのは、当時のオーストラリアにあったさまざまな「偏見」をきっちり描いているところでしょう。酒場は白人男性だけのもの。ドローヴァーの親友であるアボリジニの黒人はもちろん、貴族であるヒロインでさえ「女はダメ」と入店を拒否される。
アボリジニと白人の混血である少年は「クリーム」と呼ばれ、「悪い伝統を受け継がないように」と無理やり家族から引き離されて「伝道の島」へと送り込まれる……(このあたりは沖縄の「方言撲滅運動」を思わせるところがあります。やり口はもっとひどいけど)

牛追いの旅を成功させた後、ドローヴァーはサラを連れくだんの酒場に出向きます。店主はもちろん「女はダメ」とサラの入店を拒否しますが、居合わせた誰かが、こんな快挙をなしとげた人は女じゃない、だから飲ませてやれと声を上げ、サラはドローヴァーと祝杯を挙げます。
これ、一件ハッピーエンドに見えるけどそうじゃない。サラは「女じゃないから」ということで男と同等に扱われる資格を得ただけなんですね。これじゃ根本的解決にはなっていない。

その後ダーウィンの町が爆撃を受け、サラのいた建物も爆発炎上。サラの死を悲しむドローヴァーは、焼け野原となったダーウィンの街を歩き、黒人の親友を連れて爆撃で半壊した酒場に向かいます。弔いの杯を上げるために。しかしまたも店主は「黒人はダメ」と入店を拒否。
とうとうブチ切れたドローヴァー、店主に向かって涙を流しながら「この期に及んでまだそんなこと言ってるのか」と非難します。
店主は、最後にはグラスを3つ出して酒を注ぎます。ドローヴァーの分、黒人の分、そして自分の分。3人の男はサラを悼んで酒を飲み干すのでした。
(その後死んだのはサラではなく、サラがオーストラリアに来てから親しくなった女性と判明するのですが)

人間の心の中にある偏見という壁は、戦争という極限状況にでも追い込まれない限り、なかなか取り払えるものではないんだなぁとあらためて認識させられる場面でした。


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