〔疎乙第十二号証二〕
「意見書」
名古屋大学法学部教授 長谷川正安 (印)
(注)、これは、原告(申請人)宮地健一、被告(被申請人)日本共産党の『日本共産党との裁判』仮処分申請で、被告側疎明資料として提出されました。
仮処分申請では、訴訟の「原告」のことを「申請人」といい、「被告」を「被申請人」とします。私の裁判は、仮処分申請と(本)訴訟の両方があるので、仮処分申請の場合も原告・被告とします。「疎明」とは、「証明」と同じ意味ですが、仮処分での法律用語です。「疎甲」は原告側ですが、「疎乙」は被告側資料です。仮処分審尋(しんじん)は、1977年12月に始まり、1978年8月第9回で結審し、仮処分決定が出ました。仮処分申請では、公判のことを審尋といい、判決を「決定」といいます。判決、決定とも《判例》になります。
被告側は、この「意見書」を終盤の1978年7月第8回審尋で出してきました。長谷川正安教授は、著名な憲法学者ですが、事実上の公然党員です。文末提出宛先の藤井繁弁護士は、この裁判の共産党側弁護士で、9回の審尋すべてに参加しました。他に原山弁護士もいて、原告側が弁護士なしの私1人にたいして、被告側は県常任委員2人、弁護士2人の計4人という審尋風景でした。
この「意見書」は、憲法学者であり、かつ共産党員という両者の立場に基づくものです。「意見書」論旨は、憲法第32条「裁判請求権」と憲法第21条「結社の自由権」との関係をめぐるテーマです。そこで、共産党員・長谷川教授は第21条をたてにとって、私の訴えには第32条の「司法審査権」がないとして、“門前払い却下せよ”と主張しています。但し、裁判所は、「決定」でこの意見内容をすべて却下しました。この内容と長谷川教授姿勢への私の見解は、『日本共産党との裁判第7部』で詳述しました。そこで批判した個所を『青太字』にしました。
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『長谷川「意見書」批判』 水田洋、「大統領」、中野徹三、高橋彦博
第8部・完結『世界初・革命政党専従の法的地位「判例」』
一、憲法第二一条は「結社の自由」を保障しているが、政党は憲法がその自由を保障する結社のうち、もっとも重要なものの一つである。
政党は、共通の政治的目的をもつ、多数の国民が、その目的実現のため、恒常的に結成する団体であるが、この場合「結社の自由」は、「思想の自由」(憲法第一九条)と固く結びついている。
「結社の自由」とは、政党の場合、すべての国民が、いかなる政党にも自由に加入し、脱退できることを意味する。さらに「結社の自由」は、国民個人が自ら結成する団体が、その組織・運営について、自治の権利を認められていることを意味する。政党は、その政治目的にてらして、自主的に、その組織・運営を決定することができる。日本国憲法のもとでは、政党は政治的目的をもつ私的結社にすぎないから、私的自治が認められ、公権力は原則として、その組織・運営に干渉することはできない。
「結社の自由」にもとずく政党の自由な組織・運営に公権力の介入が認められるのは、破壊活動防止法(昭和二七・七・二、法二四〇)、政治資金規正法(昭和二三・七・二九、法一九四 )、公職選挙法(昭和二五・四・一五、法一〇〇)など、法律に特別の規定がある場合に限定される。政党の組織・運営にたいして、法律上の根拠なしに公権力が介入することは、「結社の自由」を侵害すると同時に、憲法第三一条の「法律の定める手続」を侵害することになる。
憲法・法律を侵害しないかぎり、政党の組織・運用に関する政党員の相互関係は、政党の内部問題であり、完全な私的自治の領域に属する。政党が、その党員のうち、だれを専従党員にするか、しないかは、政党の純粋な内部問題であって、自主的に規制され、法的規制の対象とはならない。専従解任の当・不当は事実上の問題であって、合法・違法の問題とはなりえない。
二、政党が、専従の党員の専従を解任し、その所属党組織を変更するのは、政党自身の自主的に判断すべき内部的組織問題であり、それがどのようになされようと法的な問題を生ずることはない。
三、政党には、その政党自身の定めた規約があり、その規約にたいする重大な違反が、党員の除名理由となることは一般に行なわれていることである。それは「結社の自由」のもたらす当然の効果の一つである。除名の条件および執行の緩厳は、それぞれの政党自身の自主的判断にゆだねられる。したがって政党が特定の政党員を除名した場合、その除名の仕方によって政治的効果が問題になることはあっても、法的効果が問題となることはない。
右一、二、三にのべたことは、すべて、政党内における、党員相互の関係についてあてはまるのであって、政党と一般市民の関係、党員相互の関係であっても、政党の内部問題をこえた市民的関係の場合には、別の角度からの検討が必要になる。しかし、本件の場合の問題点は、すべて政党内部の組織問題に限定されているので、その検討を行う必要を認めない。
昭和五三年六月二一日
名古屋大学法学部教授
長谷川正安 (印)
名古屋弁護士会々員 藤井繁殿
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『長谷川「意見書」批判』 水田洋、「大統領」、中野徹三、高橋彦博
第8部・完結『世界初・革命政党専従の法的地位「判例」』