personel:山下洋輔(p) Cecil McBee(b) Pheeroan akLaff(ds) ゲスト:Lavi Coltrane(ss,ts)(M4,5,6,8,9) date:1996年5月12・13日 place:SONY Studio,New York,NY
曲名だけ眺めると、なんともちぐはぐな取り合わせですよね。 山下さん本人のなかでは、ちゃんと辻褄があってるのだそうです。 確かに、このCDが出る前後の色々な事柄をつなぎ合わせて邪推を 重ねれば、そういえば辻褄があってるのかも....と思えてきます。 96年という、はたから見てもかなり激動期だった1年の象徴、というか 予兆というか。
まず、この Canvas in Vigor 〜目をみはるキャンバス の姉妹版にあたる Canvas in Quiet 〜耳をすますキャンバス 。 これのコルシカ録音が96年の最大トピックのひとつであったことは確か。 それから、後に Stone Flower を リリースすることになるジョビンへのオマージュ・コンサート。 これまたこの年の大事件だったはずです。 で、この二つに絡んだ曲が半分を占めてるわけですね。今にして思えば、 この2枚を収録するまでの半年間のコンサートが全て、 その準備のために費やされていたようにさえ見えます。いえ、これは 極論ですけどね! (順番からすると、 NY→コルシカ→ブラジル と録音が進んでいきます。)
そしてここに、ラヴィ・コルトレーンの参加という新たな展開が 加わります。言わずとしれたジョン・コルトレーンの息子さんですね。 ミミズ自身、コルトレーンにあまり思い入れがなくて今一つ実感が 湧かないのですけど、彼の来日(66年)の際に日本のジャズ・ミュージシャンや リスナーに与えた衝撃というのは漏れ聞いています。ちょうど日本の フリージャズのあけぼの、という時期にあたっていて、相当な影響が あったといいます。山下さんも例外ではないでしょうね。
ラヴィが参加することになった経緯は分からないのですが、 「(加わってもらうからには)こちらのやってほしいことをやってもらった」 というのが山下さんの弁(JazzLife 96年12月号)。で、ついコルトレーンJr. への期待感が表に出ちゃったのが Bolero と Soul Eyes だったようです。 前者はジョン・コルトレーンの音楽に構造が似通っていて、彼自身に 取り上げて欲しかった曲。後者は、マル・ウォールドロンがコルトレーンに捧げた 曲なのだそうです。
うーん、曲々の来歴を記したところで、やっぱりちぐはぐはちぐはぐかあ。 でも、山下洋輔NYトリオのフィルターを通った音楽なのは確かなのです。 だから聞いている分には何の違和感もない。また、同じ年に録音した2枚を 引き合いに出しましたけど、それらとは全く別物です。
そう、もはやNYトリオは生命と個性をもった1つの生き物なんだなあ、と 感慨を新たにするようなCDです。
(97年7月16日)
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