CANVAS IN VIGOR/山下洋輔

(POCJ-1360 / VERVE)
personel:山下洋輔(p)
          Cecil McBee(b)
          Pheeroan akLaff(ds)
          ゲスト:Lavi Coltrane(ss,ts)(M4,5,6,8,9)
date:1996年5月12・13日
place:SONY Studio,New York,NY 

1.Song of Birds(Catalan Folksong)
2.Splashes on Palette(Y.Yamashita)
3.After Blue(Y.Yamashita)
4.Bolero(M.Ravel)
5.Surfboard(A.C.Jobim)
6.Double Rainbow(A.C.Jobim)
7.Echo of Gray(Y.Yamashita)
8.Drum Boogie '96(Y.Yamashita)
9.Soul Eyes(M.Waldron)

ミミズのコメント

 曲名だけ眺めると、なんともちぐはぐな取り合わせですよね。 山下さん本人のなかでは、ちゃんと辻褄があってるのだそうです。 確かに、このCDが出る前後の色々な事柄をつなぎ合わせて邪推を 重ねれば、そういえば辻褄があってるのかも....と思えてきます。 96年という、はたから見てもかなり激動期だった1年の象徴、というか 予兆というか。

 まず、この Canvas in Vigor 〜目をみはるキャンバス の姉妹版にあたる Canvas in Quiet 〜耳をすますキャンバス 。 これのコルシカ録音が96年の最大トピックのひとつであったことは確か。 それから、後に Stone Flower を リリースすることになるジョビンへのオマージュ・コンサート。 これまたこの年の大事件だったはずです。 で、この二つに絡んだ曲が半分を占めてるわけですね。今にして思えば、 この2枚を収録するまでの半年間のコンサートが全て、 その準備のために費やされていたようにさえ見えます。いえ、これは 極論ですけどね! (順番からすると、 NY→コルシカ→ブラジル と録音が進んでいきます。)

 そしてここに、ラヴィ・コルトレーンの参加という新たな展開が 加わります。言わずとしれたジョン・コルトレーンの息子さんですね。 ミミズ自身、コルトレーンにあまり思い入れがなくて今一つ実感が 湧かないのですけど、彼の来日(66年)の際に日本のジャズ・ミュージシャンや リスナーに与えた衝撃というのは漏れ聞いています。ちょうど日本の フリージャズのあけぼの、という時期にあたっていて、相当な影響が あったといいます。山下さんも例外ではないでしょうね。

 ラヴィが参加することになった経緯は分からないのですが、 「(加わってもらうからには)こちらのやってほしいことをやってもらった」 というのが山下さんの弁(JazzLife 96年12月号)。で、ついコルトレーンJr. への期待感が表に出ちゃったのが Bolero Soul Eyes だったようです。 前者はジョン・コルトレーンの音楽に構造が似通っていて、彼自身に 取り上げて欲しかった曲。後者は、マル・ウォールドロンがコルトレーンに捧げた 曲なのだそうです。

 うーん、曲々の来歴を記したところで、やっぱりちぐはぐちぐはぐかあ。 でも、山下洋輔NYトリオのフィルターを通った音楽なのは確かなのです。 だから聞いている分には何の違和感もない。また、同じ年に録音した2枚を 引き合いに出しましたけど、それらとは全く別物です。

 そう、もはやNYトリオは生命と個性をもった1つの生き物なんだなあ、と 感慨を新たにするようなCDです。

(97年7月16日)

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