8月23日(土)朝の部

 本日のメイン・イベント(ミミズにとってね (笑))は、佐和田町で 行われるコンサートですが、時間があるのでちょっと観光など。

 いや、その前にすることがあった。朝食は7時! 眠い目をこすりこすり 広間に入ると、前日の夕飯時と同じく配膳はすまされており、 各自てんでに席に着く。真ん中に巨大な炊飯ジャーが2台。ご飯は勝手に盛る。 お茶も勝手に入れる。民宿だし、普段からセルフサービスなんだろうけど、 目的を同じくする20人くらいが一斉に朝飯食ってるわけで、こりゃあ合宿だなあ。
 人数が多いといえば、昨夜は人数の辻褄が合わなかったのか我々二人は 一階の十畳間をあてがわれていたけど、アースセレブレーション期間中、民宿は どこも基本的に相部屋なんである。昨日のうちに、「あしたは上の部屋に 移ってもらうから」と言い渡されている。その確認をしておかなければ....。
 今わしらが入っているところは、本来民宿ご一家が使っている部屋らしく、 それが証拠に、扉はしめてあったけど仏壇がある! アースセレブレーションの間、 ここの家の仏様はお花も線香もあげてもらえないのか....、 昨夜は、何やら非常に申し訳ない思いで床についたんだっけ。

 出かけている間に荷物を移動してくれる、というので新しい部屋の名前を聞く。 これで帰りが夜中になっても、自分たちの寝場所を探して片っ端から扉を開けて回る という真似をしないで済む。ついでに、今日は強行軍になるのが分かっているので 夕飯を断る。さて、出かけるとしますか。

 いい天気である。この辺り、なかなか風光明媚な所らしいので、ぼちぼち 歩いてみようかということに。夏も終盤、土方焼けは堪忍してほしい。しっかり 日焼け止めを塗って8時過ぎに出発。
 丘陵地帯にくねくねと連なる見事に舗装されたバス道を、てくてくと下っていく。 辺り一面、段々畑や水田。稲はまだ艶やかな緑色だが、重く垂れた穂がそろそろ 色づき始めているらしい。豊作だね、とついにこにこしながら歩く。てくてくてく。

 「どこまで歩くの」。電動三輪車(?)に乗って追いついてきた、これから 農作業に向かうらしい優しい表情のお婆さん。
「宿根木(しゅくねぎ)までなんです。 どのくらいかかりますかねえ?」「ああ、宿根木なら15分位かしらねえ」
 麓の小木まで歩こうとしたら、かなりの道のりである。 不案内な旅行者が無茶なことを考えているのではないかと、心配してくれたのだと思う。
「あんたたちも、鼓童に来たの? 今年は雨に降られなくて良かったねえ」
鼓童という言葉が日常語になっていることが感じられて、なんだか嬉しい。
 じゃあ気を付けて、と終始にこやかなまま、お婆さんはゆったりした速度で去っていった。 普段ミミズが暮らしているところでは、こういう心遣いはとんと見かけない。
 ・・・・その後ろ姿が、何だかとても有り難いものに思えた。


 宿根木は、その昔佐渡が北回り船で栄えた頃の重要な拠点であったそうな。 いつも入り江が凪いでおり、帆船が停泊するのに都合が良かったらしい。 佐渡の富の3分の1が集まったという往時をしのばせる集落が残り、 そのうちの2軒が公開されているというので、ま、せっかく来たんだし くらいなつもりで覗きに行く。行って驚いた。

 2艘の船を所有し大変な勢いであったという「清九郎」家の入り口を 遠巻きに見ていると、「さあさあ、どうぞお上がんなさい」と家の中から声がかかる。 小柄で痩せて背筋のしゃんとのびた、どう見ても70を越えたお婆さんが、 エプロン姿でたたずんでいる。言われるがままに料金を払うと、 そのお婆さんが家の中を案内してくれるのだ。
 規模からは豪邸とは言い難いが、まことに贅をつくした家であることがわかる。 太い檜の大黒柱。床柱が八角に細工されて、これは最近京都の宮大工が目を丸くして いった程、難しい技術なのだそう。立派な漆塗りの仏壇は松竹梅の透かし彫り入り。 襖には見事な山水画。囲炉裏の自在鉤ひとつとっても、珍しい意匠がこらしてある。

 しかしこの家の贅沢さもさることながら、そのお婆さんの説明の分かりやすく面白いこと。 「さて、こちらの窓でございます。小さな窓でございましょう? どうして こんなに小さいのかお分かりですか?」よどみなく聞き易く明瞭で威圧感のない語り口、 しかも、覚えた説明を棒読みしているのでもない。「私が嫁いで参った時分には、 この大釜で毎日十升の米を炊いておりました。おいしいお米が炊けます。」 「この床は柿渋を3回塗り重ねたもので、きれいでしょう?  代々、丁寧に手入れしてきたんでございますねえ。」このお方そのものが、 生きた民俗誌であり、その言葉にはこの家で暮らしてきたことに対する誇りと 昔の人に対する畏敬の念が溢れていた。
 後で気が付いたのだけれど、「嫁いできた」というからには、世が世ならば清九郎家の 大奥様という方だった訳で、どうりで品のあるお婆さまだった。 この家の文化財としての価値を十分理解し、大切に守ってきた家が観光客の 好奇の目に晒されるのを嫌がりもせず、 こうやって自ら説明役をかっていらっしゃるんである。
 有り難い、有り難い。

 お婆さまの丁寧な説明を聞いていたお陰で、この後行った「佐渡国小木民俗博物館」は 展示品の説明書きがいちいち腑に落ちて、非常に面白かった。 (この博物館は今時流行のやれ映像だ、説明ロボットだ、みたいなこけおどしがない。 ひたすら、よく整理された膨大な史料と丹念な添え書きでもって 立体的に佐渡の伝統的な生活を見せてくれる、とても共感できる施設だった。)

 もし、この辺をゆっくり歩く機会があったら、ぜひこの宿根木をコースに加えて 下さい。集落内の路地もとてもいいたたずまいです。

前へ次へ


人に見せる日記 目次

製作者=水のなおみ
All Right Reserved by Naomi Mizuno.