雨やどりの木
この砂漠を通ってゆく風は、きまって、薄い空の色に染まってゆきます。
それは、この乾いた大地から蒼い砂の粒子をさらって、遠くの地へと連れ去ってゆく
から。
微かに湿り気を含んだ、造り物ではない、自然に生まれた風の感触。
その感触に気づいて、砂を掬う手を止めて、砂絵描きはふと空を見上げました。
「通信板じゃ、今日は雨降りの予定なんてなかったはずなのに。」
砂絵描きの前髪を軽くなでて通る風の、やってくるむこうから、灰色の水彩絵の具の
しみのように、雨雲が広がってくるのが見えました。
この移民星に点在する街から、ずっと離れたところに、青い砂が流れる砂漠がありま
した。
天河石や、青金石の結晶を多く含む、細やかな砂の粒子たち。
その自然の青色は、どんな着色した砂にも出すことのできない、深みと透明さを持っ
ているのでした。
特に、高い空やさざめく海を砂で描く時には、どうしてもここの砂が必要だったのです。
だって、どんなに遠い移民星でも、海の色と空の色だけは、いつも青色と決まってい
たから。
だから、砂絵描きは、よく街から遠くこの砂漠まで足を運んでいました。
もちろん、雨降りの予定がないことを、確認して。
雨が降ったら、せっかく集めた砂も、いつも持ち歩いている道具も、しばらくつかい
ものにならなくなってしまうのです。
土地を潤すために観測所が降らす、この地方の雨降りの回数は、月に五日間。
いつもなら、その予定は水色の通信板を見れば、ちゃんと傘のしるしで書いてありま
した。
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