「もしかして、観測所の創った雨雲じゃないのかしら。」
砂絵描きは、そうつぶやきながら急いで道具をかたづけて、一番近いエアバスの
停留所に向かって駆けだしました。
停留所まで戻れれば、ちいさな屋根の待合室があるはず、と思い出したのです。
砂と同じ色の日よけの帽子を飛ばされないように手で押さえながら、近づいてく
る雨雲に追いつかれないように、砂絵描きは必死に走りました。
ところが、さらさらした砂に足元をすくわれて、なかなか思うように速く駆ける
ことができません。
「どうしよう、このままじゃ、間に合わないなぁ……。傘、持ってきとけばよかった。」
息を少し切らせて、ふうと呟いたのと同時に、ぽつりと、冷たい水滴が額に当た
りました。
エアバスの停留所までは、まだ、青い砂の彼方。
諦めてしゃがみこんで、空を仰いだ、その時でした。
わん、わん。
雨の気配と砂の流れる音しかないこの砂漠に、突然響いた、声。
それは、呼びかけてくるように届いた、聴いたことのない、動物の鳴き声。
驚いて砂絵描きが振り向いた、少し小高くなった砂丘の上に、りりしくて優しい
黒い瞳を持つ、見たことのない動物が立っていました。
栗色のやわらかい毛並に、ぴんと風の方に向けた、三角形のふたつの耳。
ふさふさしたしっぽを灰色の空に向けて立てながら、細い四つの足で、しっかり
と砂を踏みしめて。
その瞳は、まっすぐ砂絵描きの方を見つめていました。
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