「あなたも、間に合わなかったの……? おいで、せっかくだから一緒に雨に濡れ
ようよ。」
砂絵描きの言葉を聞いたか聞かずか、その動物は少しだけ砂丘の向こうに走って
から、また振り向いて。
わん、わん。
まるで、こっちにおいでと、砂絵描きを導くように。
「もしかして、ついてこいって言ってるのかしら。」
このまましゃがんでいても濡れるのは一緒だしと、砂絵描きは軽く立ちあがって、
その動物の方へと駆けだしました。
ついてくる砂絵描きの姿を時々確認しながら、ぽつり、ぽつりと落ちてくる大粒
の滴に追いつかれないように、動物は軽やかな足取りで砂丘を越えて行きます。
ころん、ころん。
栗色の動物を追って走る砂絵描きの耳を、何処かから、ふと、こんな調べがかす
めてゆきました。
重くてやわらかい、ブリキ球の転がるような、音。
「ちょっと待ってよ、私、足ふたつしかないから、そんな速く走れない……。」
息切れして、つい根をあげながら、砂絵描きがひときわ大きな砂丘を越えた、そ
の時でした。
瑠璃色の鉱石が混じって、相変わらず海のように広がる砂漠のまんなかに、ただ
ひとり。
翠色の葉をたたえた両手の枝を、高い空へと広げて。
大きな樹が、たったひとりで、ぽつりと、立っていたのです。
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