雨やどりの木 / page3




「あなたも、間に合わなかったの……? おいで、せっかくだから一緒に雨に濡れ ようよ。」  砂絵描きの言葉を聞いたか聞かずか、その動物は少しだけ砂丘の向こうに走って から、また振り向いて。   わん、わん。  まるで、こっちにおいでと、砂絵描きを導くように。 「もしかして、ついてこいって言ってるのかしら。」  このまましゃがんでいても濡れるのは一緒だしと、砂絵描きは軽く立ちあがって、 その動物の方へと駆けだしました。  ついてくる砂絵描きの姿を時々確認しながら、ぽつり、ぽつりと落ちてくる大粒 の滴に追いつかれないように、動物は軽やかな足取りで砂丘を越えて行きます。   ころん、ころん。  栗色の動物を追って走る砂絵描きの耳を、何処かから、ふと、こんな調べがかす めてゆきました。  重くてやわらかい、ブリキ球の転がるような、音。 「ちょっと待ってよ、私、足ふたつしかないから、そんな速く走れない……。」  息切れして、つい根をあげながら、砂絵描きがひときわ大きな砂丘を越えた、そ の時でした。  瑠璃色の鉱石が混じって、相変わらず海のように広がる砂漠のまんなかに、ただ ひとり。  翠色の葉をたたえた両手の枝を、高い空へと広げて。  大きな樹が、たったひとりで、ぽつりと、立っていたのです。




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