翼のように大きく広げた梢の下には、これも見たことのない動物達が、まるで
綿菓子のように身を寄せ合っていました。
綿のような、雪のような、白い毛皮を纏った動物達。
くるりと巻いた角を、軽く振って、時々、曇り空に向けて高い鳴き声をあげて。
ふわふわした首もとの赤い首輪には、真鍮でできたちいさな鐘が、ころん、ころ
んと、鳴き声に応えるように音を奏でます。
その調べと競いあうかのように、翠色の屋根のずっと上の方からは、聴いたこと
のない鳥のさえずりも届いてくるのでした。
その見知らぬ翼は、砂絵描きのいる樹のたもとからは、見えなかったけれど。
「そっか、君たちは通信板なんかに頼る必要、ないんだね。」
砂絵描きは、すこしだけ目を閉じて、誰に話すともなく、言いました。
だって、雨降りの時には、いつだってここに、雨やどりの木が立っているから。
そう、心の中でつぶやいて。
ぱら、ぱら、ぱら。
とうとう追いついた空の滴が、幾重にも繁った葉の天井にあたります。
わん、わん、わん。
砂絵描きに、この樹を教えてくれた栗色の動物は、その天井の下を時々ぐるぐる
回って、動物の群れを樹の中心へと追いやります。
まるで、その柔らかな綿を、雨粒には濡らすまいと、護るように。
おりこうだね、と、砂絵描きは、少しだけ露に濡れた三角耳の間を、軽くなでよ
うとしました。
ところが、その手は動物のなめらかな毛並に届くことなく、さらりと、体をすり
抜けたのです。
「え……?」
砂絵描きは慌てて、傍らの白い雲のような動物たちの背中に手を伸ばしました。
けれども、まるで細やかな砂をかきわけるように、その手は白い身体をすり抜け
て空を切るばかり。
鐘の音、コーラスのように重なる鳴き声、高みにいる鳥の、毛づくろいの気配。
この樹のしたに集う、生き物たちのそんな息づかいは、この耳に届いてくるのに。
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