雨やどりの木 / page4




 翼のように大きく広げた梢の下には、これも見たことのない動物達が、まるで 綿菓子のように身を寄せ合っていました。  綿のような、雪のような、白い毛皮を纏った動物達。  くるりと巻いた角を、軽く振って、時々、曇り空に向けて高い鳴き声をあげて。  ふわふわした首もとの赤い首輪には、真鍮でできたちいさな鐘が、ころん、ころ んと、鳴き声に応えるように音を奏でます。  その調べと競いあうかのように、翠色の屋根のずっと上の方からは、聴いたこと のない鳥のさえずりも届いてくるのでした。  その見知らぬ翼は、砂絵描きのいる樹のたもとからは、見えなかったけれど。 「そっか、君たちは通信板なんかに頼る必要、ないんだね。」  砂絵描きは、すこしだけ目を閉じて、誰に話すともなく、言いました。   だって、雨降りの時には、いつだってここに、雨やどりの木が立っているから。    そう、心の中でつぶやいて。   ぱら、ぱら、ぱら。  とうとう追いついた空の滴が、幾重にも繁った葉の天井にあたります。   わん、わん、わん。  砂絵描きに、この樹を教えてくれた栗色の動物は、その天井の下を時々ぐるぐる 回って、動物の群れを樹の中心へと追いやります。  まるで、その柔らかな綿を、雨粒には濡らすまいと、護るように。  おりこうだね、と、砂絵描きは、少しだけ露に濡れた三角耳の間を、軽くなでよ うとしました。  ところが、その手は動物のなめらかな毛並に届くことなく、さらりと、体をすり 抜けたのです。 「え……?」  砂絵描きは慌てて、傍らの白い雲のような動物たちの背中に手を伸ばしました。  けれども、まるで細やかな砂をかきわけるように、その手は白い身体をすり抜け て空を切るばかり。  鐘の音、コーラスのように重なる鳴き声、高みにいる鳥の、毛づくろいの気配。  この樹のしたに集う、生き物たちのそんな息づかいは、この耳に届いてくるのに。




→Next

ノートブックに戻る