「そんな……。」
砂絵描きは、降りてくる雨をその枝で受け続ける、大きな樹の幹に触れました。
手のひらを通して、ごつごつと乾いた暖かな樹皮の感触が伝わってきました。
とくん、とくん、と樹液と共にその奥で流れる、樹の想いの鼓動も。
そうか、この樹……
砂絵描きは、ようやくぼんやりと感じ取って、言葉もなく呟きました。
雨やどりに集い、枝に抱かれて寄り添う、この移民星では見たこともない動物たち。
手のひらから伝わる、幾つもの夜を経た古い大樹の、ゆるやかな鼓動のリズム。
そのリズムは、護るべき家族たちの訪れに、静かな歓びに満ちていました。
この樹、遠い過去の、故郷の星のことを思い出しているんだ。
その瞬間、ひときわ激しく強く、雨の滴が砂漠に降り注ぎました。
観測所の創る雨雲なんかでは、到底もたらすことのできない、天から降りてくる
無数の水滴。
その恵みに潤った青い砂は、夜が訪れた空のように、またたく間に濃い群青色へ
と移ってゆきます。
砂絵描きと動物達を護る、翠色の屋根の影だけを、あなをあけたように青空のま
まに残して。
幹にもたれて、背中に樹の想いを感じて、砂絵描きは無意識のうちに、こんなう
たを紡いでいました。
大粒の真珠のような水滴の、ひとつひとつが奏でて重なる、ちいさな生物達を圧
倒する、自然のコーラスに包まれて。
雨やどりの木 雨が降ったら
みんなあの木を めざして走る
雨やどりの木 雨が降ったら
葉が打ち鳴らす 歓びの歌
翼持つ者 顔を埋め
角を持つ者 飛沫落として
私は言葉 忘れてしまう
この枝に抱かれて
この枝に抱かれて
|