雨やどりの木 / page5




「そんな……。」  砂絵描きは、降りてくる雨をその枝で受け続ける、大きな樹の幹に触れました。  手のひらを通して、ごつごつと乾いた暖かな樹皮の感触が伝わってきました。  とくん、とくん、と樹液と共にその奥で流れる、樹の想いの鼓動も。   そうか、この樹……    砂絵描きは、ようやくぼんやりと感じ取って、言葉もなく呟きました。  雨やどりに集い、枝に抱かれて寄り添う、この移民星では見たこともない動物たち。  手のひらから伝わる、幾つもの夜を経た古い大樹の、ゆるやかな鼓動のリズム。   そのリズムは、護るべき家族たちの訪れに、静かな歓びに満ちていました。   この樹、遠い過去の、故郷の星のことを思い出しているんだ。  その瞬間、ひときわ激しく強く、雨の滴が砂漠に降り注ぎました。  観測所の創る雨雲なんかでは、到底もたらすことのできない、天から降りてくる 無数の水滴。  その恵みに潤った青い砂は、夜が訪れた空のように、またたく間に濃い群青色へ と移ってゆきます。  砂絵描きと動物達を護る、翠色の屋根の影だけを、あなをあけたように青空のま まに残して。  幹にもたれて、背中に樹の想いを感じて、砂絵描きは無意識のうちに、こんなう たを紡いでいました。  大粒の真珠のような水滴の、ひとつひとつが奏でて重なる、ちいさな生物達を圧 倒する、自然のコーラスに包まれて。    雨やどりの木 雨が降ったら    みんなあの木を めざして走る    雨やどりの木 雨が降ったら    葉が打ち鳴らす 歓びの歌    翼持つ者 顔を埋め    角を持つ者 飛沫落として    私は言葉 忘れてしまう    この枝に抱かれて    この枝に抱かれて




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