雨やどりの木 / page6




 やがて、この星の空気から生まれた雨は、西の空へと去ってゆきました。  この地には群青色の潤いを、古い樹の梢にはたくさんの滴の木の実を、残して。  そして、元通りに広がってゆく、砂漠の砂よりは薄くて軽い青の空の彼方には、 数多の彩を重ねて描いた虹を残して。   わん、わん、わん   栗色の動物が、尻尾をぱたぱたと振って、呼びかけるような力強い鳴き声をあげ ました。  その声を合図に、樹のしたに身を寄せていた白い動物達が、一斉に歩き始めました。  ころん、ころん、と鐘の音をならして、まるで、夏の空を流れてゆく、綿雲のよ うに、ふわふわと。  その行列の最後にくっついて、一度だけ、砂絵描きの方に、わん、と声をかけて。  動物達は、雨やどりの木から出て、遠い過去へと、帰って行ったのです。 「ひとりに、なっちゃうね。」  残された砂絵描きは、ふぅ、とひとつ、ため息をついて、樹に話しかけました。 「雨やどりさせてくれてありがとう。もう、私も行かなくちゃ。」   ひとりでさびしくても、いつまでも昔の夢や想い出の中にいるわけには、   いかないから。  そうして、帽子をかぶりなおして、砂絵描きは、樹のそとへと歩き出しました。  雨が砂に描いた、濡れた群青の空と、乾いた青空の、境界線を踏み越えて。




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