やがて、この星の空気から生まれた雨は、西の空へと去ってゆきました。
この地には群青色の潤いを、古い樹の梢にはたくさんの滴の木の実を、残して。
そして、元通りに広がってゆく、砂漠の砂よりは薄くて軽い青の空の彼方には、
数多の彩を重ねて描いた虹を残して。
わん、わん、わん
栗色の動物が、尻尾をぱたぱたと振って、呼びかけるような力強い鳴き声をあげ
ました。
その声を合図に、樹のしたに身を寄せていた白い動物達が、一斉に歩き始めました。
ころん、ころん、と鐘の音をならして、まるで、夏の空を流れてゆく、綿雲のよ
うに、ふわふわと。
その行列の最後にくっついて、一度だけ、砂絵描きの方に、わん、と声をかけて。
動物達は、雨やどりの木から出て、遠い過去へと、帰って行ったのです。
「ひとりに、なっちゃうね。」
残された砂絵描きは、ふぅ、とひとつ、ため息をついて、樹に話しかけました。
「雨やどりさせてくれてありがとう。もう、私も行かなくちゃ。」
ひとりでさびしくても、いつまでも昔の夢や想い出の中にいるわけには、
いかないから。
そうして、帽子をかぶりなおして、砂絵描きは、樹のそとへと歩き出しました。
雨が砂に描いた、濡れた群青の空と、乾いた青空の、境界線を踏み越えて。
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