雨やどりの木 / page7




「あれ……?」  ふと気がつくと、砂絵描きは、青い砂にまるくうずくまって、寝そべっていました。  見上げた空には、もう、雨雲の影も、雨上がりに見た虹も、何処にもありません。  夢を見ていたのだろうか、と見まわした周囲には、雨に濡れた一面の、夜空の色 の砂漠。 「わたしったら、雨に打たれたまま、眠っちゃったのかなぁ。」  でも、かぶったままの帽子も、大切な砂絵の道具も、掬い集めていた砂も、みん な無事でした。  不思議そうに、服についた砂をはらって立ちあがった、その時、ようやく、砂絵 描きは気づいたのです。  寝そべっていた背中のすぐ後ろに、ちいさな苗木が、まっすぐと空に向かって、 立っていたのを。  苗木は、この地方では見たことのない種類のものでした。  たったひとりで育つ細い幹の、周りの砂は丁寧にならされて、枯れ葉の肥料を与 えた跡が残っていました。  どうやら、この苗木は、遠くからこの地に来た誰かが植えていったもののようで した。  たぶん、いつの日か大きく育って、動物たちの雨やどりの木になるようにと、願 いをこめて。 「そっかぁ……。」  今はまだちいさな、苗木の前に屈みこんで、砂絵描きはつぶやきました。 「遠い昔じゃなくて、未来のこと、夢に見ていたんだね。」   いつか、この移民星にも、故郷の星と同じように、たくさんの生物達が育つように。 「がんばらなくっちゃ、ね。」  そう、声を最後にかけて、歌の続きを歌いながら、砂絵描きはエアバスの停留所 へと駆けていきました。  ひとりで、もう、樹の方を振りかえらないで。    瞳持つ者 空を見上げ    声を持つ者 歌を歌って    ひと雨きりの 愛しい家族よ    またひとりのあの木    またひとりのあの木




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