A Winter Book






 音は、凍った小川のずっと上流の方から聴こえていました。

 二人の耳に届くその音は、月が隠れて、夜気に何処か凛とした静けさが増えてくるにつれ、
 少しずつ小さくなってきているようでした。


 真白い雪原と、群青の夜天。その二つの色の境界に、白銀色の氷の流れ。

 ほのかに輝くその線を道標にして、少年と雪待鳥の少女は音を追いかけていました。

 少年は雪原を駆けて、少女は夜天を駆けて。



 「ユキノはいいなぁ、空を飛べて。」
 少年は息を切らせながら、夜風を切って低空を飛ぶユキノを見上げて言いました。

 「そう?わたしだったら、地面の上を走れる方がうらやましいけどなぁ。雪を蹴りながら……。」
 ユキノは少年の真横まで舞い降りてきて、そう言い返しました。

 
 「どうして雪から逃げてきてるのに、雪待鳥なんて呼ばれるのかしらね……。」

 そっと、誰へともなくもれる、小さなつぶやき。



 雪原に、少年の足跡。夜天に、少女の翼の軌跡。

 だんだんと空気に冷たい静かな気配が満ちてくる中で、その二つは二人の駆けた夜の中に
ずっと残っていました。








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