A Winter Book






 少しずつ、少しずつ小さくなってゆく音に慌てながら、二人は駆け続けました。

 それとともに、小川も少しずつその幅を細めてゆきました。


 まるで、ろうそくの灯が消えかけてきたかの様に。



 やがて、その灯火はなだらかな丘のふもとまで二人を導いて、細い幾筋もの銀糸に別れて雪の地面へと
吸い込まれていきました。

 「この丘の上かなぁ?」

 少年が丘の頂きの方を見上げた、ちょうどその時。


 
 それまで規則的に聴こえていた音は、大気に吸い込まれるように消えてしまいました。

 見上げると、蒼にぼんやり溶けていた月が、今はすっかり何層もの薄いひだのような灰色の雲の中に
隠れてしまっていました。



 「消えちゃった……。」

 ユキノはつぶやきながら、ふんわりと少年の横に降り立ちました。

 「うん……。」

 丘と夜空の境界に、僅かに憧れの視線を向けたまま、つぶやきを返す少年。



 不意に、少年の肩に、暖かくて冷たい、ふわりとした羽のような重み。
 その勢いで頬をかすめた、さらりとした栗色の髪。


 「ユキノ!」
 少年はびっくりして、少女を支えながら叫びました。


 
 「大丈夫、飛びすぎてちょっと疲れただけだから……。」
 少年にもたれ掛かったまま、雪待鳥の少女は小声で応えました。

 雛鳥のように、微かに震えながら。


 「冷たい……大丈夫じゃないよ、もう帰ろう。」

 その預けられた体温の冷たさに驚いて、少年は言いました。
 震える白い肩を、慌てて自分の上着で包みながら。



 「……ごめんね……。」


 ぼんやりと丘の方を見ながら、そっともれるユキノのつぶやき。









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