鳥は鳥に 〜Camomile milk tea〜
雪が舞い始めたのは、ちょうど『海』へと差しかかった時だった。
岩山の遥か向こうに、鳥の領域と人の領域を隔てる、ごく淡い乳白色の霧が見える。
凛として凍てついた、何処か厳かな気配に満ちた、暗い灰色の空。
その空の遠い彼方から、ちらちらと、真白い粒子が降りてくる。
地上へと還ってくるその粒子達に気づいて、僕はふと空を見上げた。
永い旅の中で、もう見飽きるくらいに、雪の降る夜道を歩いてきた。
なのに、その夜に出逢った粉雪は、不思議と僕の目を惹いて歩みを止めさせる。
くるくる、くるくる、まわりながら降りてくる、細やかな六角形の氷の結晶。
そのかたちが、まるで舞いあがる白い風媒花のように、今夜は妙にくっきりと映る。
(まるで、白い花みたいだ。)
ぼんやりとそう思ってから、ふと、遠い昔に出逢った鳥のことを、思い出した。
「……そう言えば、今夜は冬至だったっけ。」
一瞬ふわりと漂って消える吐息と一緒に、無意識にこぼれた、僕の呟き。
僕は、そのまま白い花弁を見上げたままで、『海』の方へと歩を進める。
多分、この雪の花の贈り主であろう、あの鳥のことを想いながら。
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