「助手さん、すごい。 まさか、本当にここまで直せるとは思わなかった。」
規則的な駆動音を奏でながら、時を刻み天球の月の方位を正確に示す月時計の内部機
構に、彼女は見入っていた。
僕がこの街の骨董屋で、『鳥』に出逢ってから、半年近く。
月時計は、遠い昔の姿を、ほぼ取り戻していた。たったひとつの、機能を除いて。
「これならきっと、おばあちゃんも喜ぶよ。」
居住区の僕の部屋に遊びにきて、ずっと直りかけの月時計を見つめていた彼女は、は
しゃぎ気味に、はじめて僕の方を見た。
そんな言葉に、僕は彼女の祖母のことを、ふと考える。
今は、飛べない孫を街に残して、遠い国へと旅をしているのか、それとも、もう亡く
なったのか。
やはり、これも聞いてはいけないこと、のような気がして、僕は月時計へと思考を戻す。
「でも、どうしても月が灯らない。もう、全ての部品は揃ってるし、機械は正常に作動
しているはずなのに……。」
残ったのは、蓋となる青硝子の半円球、外れたままの、首かけ用の銀の鎖、そして、
月時計本体。
僕は、コーヒーを飲みながら、手掛りを求めるように彼女を見る。だが、彼女は静か
に首を横に振った。
「でも、助手さんなら、きっと見つけられるよ。ここまで直せたんだもの。」
骨董屋へと帰る『鳥』を見送って、僕は少し冷めたコーヒーを飲みながら、窓の外を
見る。
まだ低い東の空に、満ちた月が昇っている。机の上の月時計を振り向くと、ちゃんと
一本の針が、まっすぐその青白い輝きを指し示していた。
『鳥』にあの問いを出された夜から、ちょうど四度目の満月だと気づいて、僕はぼん
やりとあの夜の会話を思い出す。
街灯と月明かりに映える、彼女の歌、月読鳥の民のこと、僕と、彼女の問い。
「……もしかして。」
不意に、僕はあることに思い立った。もしかしたら、あの夜、僕は自分で月時計の最
後の解を言っていたのかもしれない、と。
僕は、月時計に外れていた銀の鎖をしっかりと付け、『鳥』を追って研究棟から冷た
い月夜の下へと、駆けだした。
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