百年の満月 / page13


「助手さん、すごい。 まさか、本当にここまで直せるとは思わなかった。」  規則的な駆動音を奏でながら、時を刻み天球の月の方位を正確に示す月時計の内部機 構に、彼女は見入っていた。  僕がこの街の骨董屋で、『鳥』に出逢ってから、半年近く。  月時計は、遠い昔の姿を、ほぼ取り戻していた。たったひとつの、機能を除いて。 「これならきっと、おばあちゃんも喜ぶよ。」  居住区の僕の部屋に遊びにきて、ずっと直りかけの月時計を見つめていた彼女は、は しゃぎ気味に、はじめて僕の方を見た。  そんな言葉に、僕は彼女の祖母のことを、ふと考える。  今は、飛べない孫を街に残して、遠い国へと旅をしているのか、それとも、もう亡く なったのか。  やはり、これも聞いてはいけないこと、のような気がして、僕は月時計へと思考を戻す。 「でも、どうしても月が灯らない。もう、全ての部品は揃ってるし、機械は正常に作動 しているはずなのに……。」  残ったのは、蓋となる青硝子の半円球、外れたままの、首かけ用の銀の鎖、そして、 月時計本体。  僕は、コーヒーを飲みながら、手掛りを求めるように彼女を見る。だが、彼女は静か に首を横に振った。 「でも、助手さんなら、きっと見つけられるよ。ここまで直せたんだもの。」  骨董屋へと帰る『鳥』を見送って、僕は少し冷めたコーヒーを飲みながら、窓の外を 見る。  まだ低い東の空に、満ちた月が昇っている。机の上の月時計を振り向くと、ちゃんと 一本の針が、まっすぐその青白い輝きを指し示していた。  『鳥』にあの問いを出された夜から、ちょうど四度目の満月だと気づいて、僕はぼん やりとあの夜の会話を思い出す。  街灯と月明かりに映える、彼女の歌、月読鳥の民のこと、僕と、彼女の問い。 「……もしかして。」  不意に、僕はあることに思い立った。もしかしたら、あの夜、僕は自分で月時計の最 後の解を言っていたのかもしれない、と。  僕は、月時計に外れていた銀の鎖をしっかりと付け、『鳥』を追って研究棟から冷た い月夜の下へと、駆けだした。




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