百年の満月 / page15


 その瞬間、僕と彼女の間から、まばゆい輝きがあふれでた。  まるで、何もない、暗い群青色の小さな宇宙に、星が生まれたみたいに。 「月時計が……!」  そっと体を離して、ふたりで青硝子の天球に生まれた、ほんの小さな輝きを見つめる。  『鳥』の手のひらに乗せられた、たったひとつの青い透明な夜空に、満ちた月が昇っ ていた。  博士の、そして僕の想いを込めた鉱石が、小さな天球の中心から、真白い光を放つ。  その底辺の大地では、幾つもの真鍮や銅や銀細工のぜんまいや歯車、光石が正確なリ ズムで自らの使命を果たす。   そして生まれた僅かな力が、秒の、分の、時の針を進め、時を刻み、満ち引きのリズ ムを伝え、そして月を動かす。  まるでそれは、月読鳥の民が空を飛ぶために創られた、たったひとつの、小さな宇宙 のようだった。  そうして、その宇宙を巡る月は、自らが壊れない限り、無数の時を刻みながら、想い を乗せて青硝子の天球を巡り続ける。  いつか『鳥』がこの世から消えても、たとえ百年の時が、過ぎても。 「何だか、あまりに綺麗で、せつないね。」  小さな満月を見つめたままつぶやく、『鳥』。  僕は、そんな『鳥』の瞳を見つめて、あの問いの答えを言葉につむぐ。もう、答えは 決まっているのだから。 「やっと、博士の頼みも果たせた。『鳥』、これでやっと、空に還れるね。」 「……もし私が本物の『鳥』だったら、お芝居の役みたいに月読鳥の娘だったら、そう だね。」  そんな僕の言葉に、『鳥』は少しきょとんとして、やがて思いもかけない言葉を、返した。




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