その瞬間、僕と彼女の間から、まばゆい輝きがあふれでた。
まるで、何もない、暗い群青色の小さな宇宙に、星が生まれたみたいに。
「月時計が……!」
そっと体を離して、ふたりで青硝子の天球に生まれた、ほんの小さな輝きを見つめる。
『鳥』の手のひらに乗せられた、たったひとつの青い透明な夜空に、満ちた月が昇っ
ていた。
博士の、そして僕の想いを込めた鉱石が、小さな天球の中心から、真白い光を放つ。
その底辺の大地では、幾つもの真鍮や銅や銀細工のぜんまいや歯車、光石が正確なリ
ズムで自らの使命を果たす。
そして生まれた僅かな力が、秒の、分の、時の針を進め、時を刻み、満ち引きのリズ
ムを伝え、そして月を動かす。
まるでそれは、月読鳥の民が空を飛ぶために創られた、たったひとつの、小さな宇宙
のようだった。
そうして、その宇宙を巡る月は、自らが壊れない限り、無数の時を刻みながら、想い
を乗せて青硝子の天球を巡り続ける。
いつか『鳥』がこの世から消えても、たとえ百年の時が、過ぎても。
「何だか、あまりに綺麗で、せつないね。」
小さな満月を見つめたままつぶやく、『鳥』。
僕は、そんな『鳥』の瞳を見つめて、あの問いの答えを言葉につむぐ。もう、答えは
決まっているのだから。
「やっと、博士の頼みも果たせた。『鳥』、これでやっと、空に還れるね。」
「……もし私が本物の『鳥』だったら、お芝居の役みたいに月読鳥の娘だったら、そう
だね。」
そんな僕の言葉に、『鳥』は少しきょとんとして、やがて思いもかけない言葉を、返した。
|