百年の満月 / page6


 こんな風に、僕の留学先での生活は始まった。  講義を受けたり、図書館に調べ物に行ったりする時間を除いて、基本的には研究棟の 鉱石工学の研究室にいることが多い。  居住区も研究棟にあったから、大半の時間は研究棟で過ごすことになる。これは、あ る意味で効率的な環境で、僕には好ましかった。  ただ、留学前に思い描いていた静かな研究環境には、ちょっと程遠くなってしまった。  何故なら、鉱石工学の研究室にはたいてい『鳥』がいて、必然的に彼女と一緒に行動 することが多くなったから。  もっとも、普段一緒にいて会話をしている限り、『鳥』は普通の大学院生とあまり変 わることはない。  博士と同じくらい歳を重ねているとしたら相当な年齢のはずなのだが、彼女が何を想 って今大学院生として過ごしているのかは、わからなかった。  他にも、遠い昔の博士とのいきさつのことや、月読鳥の民のこと、聞きたいことはあ ったが、結局、彼女には聞かなかった。  たぶん、それは決して聞いてはいけないことだろうと、僕は思ったから。     *




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