「確かに、これじゃ博士には直せないだろうなぁ。」
深夜の居住区の自室で、僕は、感嘆のため息をもらしながら思わずつぶやいた。
月時計は、細心の注意を払って青硝子の蓋をはずしてみると、とても綺麗で均整のと
れた構造をしていた。
幾つもの細やかな歯車やぜんまいが繋がっていて組みあがっており、年老いた博士の
目では、手を出すことはできそうにない。
慎重に調べてみると、幾つか部品の欠損や、工学的な不明点もあったが、機械として
は直せそうな気が、した。
だが、根本的にわからないところも多かった。
最もわからないのは、中心に据えた月鉱石と、精巧に組まれた機械達。それが、どう
繋がって光源を得て、正確な月の位置と形を映すのか。
「……博士は、何で今になって、月時計を直したいと思ったのだろう。」
研究棟の窓から、ぼんやりと月明かりが差し込んでいる。その明かりを眺めて、ふと
『鳥』のことを考えながら、僕は想った。
「……『鳥』は、今でも空に還りたいのだろうか。」
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