町では初夏になると、収穫を祈る祭りが行なわれる。さまざまな出店が立ち並
び、町は祭りのにぎやかな活気と色彩に包まれる。

 秋の収穫を想い、人々は陽気に飲み、疲れるまで踊り、詩人は喉がかれるまで
歌う。そうして人々は神々に穣りを祈る。


 そして、祭りの最後の日、六の月の始まりの日の朝に、神々に仕える巫女が舞
を捧げ、作物を育てる雨を呼ぶ。



 あれから二年の月日が流れた。娘は18になり、一人前の巫女として、その務
めは母親から全て受け継がれた。

 娘は日々の努めに追われ、もはや森へは行けなかった。たとえ時間があったと
しても行く気は起こらなかった。少年が旅立ったあの日以来。

 祭りでの舞は、巫女にとって重大な務めであり、その役目は今や娘に負わされた。

       
 純白の衣がまだ薄暗いあけぼのの光を受けてたなびく。

 静かな朝の空気の中を巫女の手の鈴の音が響く、あたかも間をおいて地に落ちる
朝露の様に。

 清らかに、静かに、早く、ゆっくりと……    


 娘は舞い、祈った。人々の願いを神に届け、六月の雨を天から呼び寄せ、大地に
恵みをもたらすために。


                     

 舞はおわった。舞の後の一日は久しぶりの休みだった。でも、祭りの最終日の喧
騒のなかに出ていくのは気が進まず、神殿でくつろぐ以外にすることはなかった。


 普段の忙しさから開放されて、何もせずにいると森のことを思い出してしまう。
そして、少年のことを。

 思い出すのはつらい、でも忘れたくない、幼い日の想い。


 夕方、娘は惹かれるように森に入っていった。もう長いこと足を踏み入れなかっ
た森の中に。



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