夜の大気はますます澄み渡り、凍てつく様な冷気もその冴えをさらに強
めてゆく。木々はその冷気に枝を震わせ、あらゆる生き物は少しでも暖か
い寝床で、眠りの中でじっと朝を待つ。
  詩人も、また眠りの中にいる。


  娘は真白い衣を夜風が震わせるのもかまわず、ずっと詩人を見ていた。
古い廃屋の隅で、毛布にくるまって眠る詩人。北の山から吹き降ろす冷気
は容赦を知らず、隙間だらけの廃屋へと踏み入り、詩人の体から、体温の
全てを奪いつくそうと試みる。


  だが、詩人の眠りは穏やかだった。彼の周りに優しく取り巻く、一つの
意識。この大地とともに、幾千の夜を越えてきた、優しい意識。それが、
眠る小鳥を守る様に、毛布よりも暖かく詩人を包み込んでいる。


    おまえが夜明けに見る夢に  一つ彩りを加えよう
    やがて来るおまえの朝に  優しい光が降るように


  娘の細いしなやかな手が、天空へと伸ばされ、ゆるやかに、踊る様に輪
を描く。大気が微かに震え、娘の呼び掛けは遥か北の大地へと届き、それ
に応えて、夜風はますます勢いを強め、北の山々を越えて空気を運び、そ
して……。





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