そら とぶ ゆめ Act.6  tears (II) / page1


tears (II)  雨の音が、聴こえる。  遥かな空の高みで生まれた滴が、永い落下の旅を経て、ここの土や岩に、窓硝子に、 壁に弾けて奏でる、一瞬の音。  その一瞬が幾重にも、幾重にも重なって、雨の午後を奏でる音楽を形造っている。  そんな雨の音楽を聴きながら、旅人は、ぼんやりと目醒めた。  最初に視界に映ったのは、見知らぬ家の石造りの天井の、模様。 (ここは……?)  確かに、降りしきる雨の海岸を歩いていたはずなのに、いつの間にか、ふんわりと暖 かい毛布に包まれて、眠っていた。  気が付くと、上半身は裸にされていて、仰向けに眠って敷布に挟まれた背から、真白 い自分の翼の淵がのぞいている。  それなのに、胸元には、大切な水色の三日月の『機械』が、忘れずにかけてあった。 (いったい、誰がここに……?)  まだ起きあがるだけの体力がなく、代わりに軽く寝返りをうって、横になって窓の側 を、ぼんやりとした瞳で見やる。  その、ベットの窓側の端に、離れて少し縮こまるように、旅人と同じ毛布に包まって。  綺麗な黒い髪の、娘が、すやすやと眠っていた。    そう言えば、疲労と空腹で朦朧としながら海岸線を歩いていたさなかに、呼びかける 声を聴いたのを、ぼんやりと憶えている。  何処か懐かしい澄んだ声で、あなたは、誰、と、心の奥に直接届いた、呼びかけ。 (この人が、私を呼んだのだろうか……?)  少し疲れた様子で眠る娘の横顔を、ぼんやりと見ながら、旅人はまた深い眠りの淵へ と、落ちていった。     *




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