そら とぶ ゆめ Act.6  tears (II) / page2


 ふんわりと漂う、温かい香りに誘われて、再び旅人は眠りから醒めた。  今度は身体も随分回復したのか、ベットから起きあがって、その香りの源を見ること が、できた。  ベットの横で、陶器の白い皿に淡い黄色のスープと、旅人の着ていた服を持って、娘 がしゃがんでいた。   わたしのこと、聴こえる? ……良かった、ちゃんと目醒めてくれて。  眠りから醒めた旅人に気付いて、軽く首を傾げて、ほっとしたように娘が言った。  正確には、「言った」のでは、なかった。娘の口は小さく閉じたままで、言葉を声に することはなかった。  だけど、娘の言葉は、確かに旅人に聴こえた。耳にではなくて、胸にかけた水色の月 の『機械』を通じて、心に、直接。  よく見ると、しゃがんだ娘の白い衣服の胸元を、全く同じ、水色の月が飾っていた。 「その、水色の月の、『機械』……。」  娘の言葉が聴こえたことに応えて、軽く肯いてから、旅人は娘に問いかけるように、 呟いた。   風読みがわたしを見つけてくれた時に、くれたの、ですって。……旅人さん、のは? 「……私は、幼い頃、旅立ちの日に、友達の『機械』が、私に託してくれたのです。」  ふたつの『機械』を通じた、たどたどしい、娘と旅人の、会話。まるで、届いて繋が るのを確かめるように、ゆっくりと、進む。     どうして、あんな海岸で休んでいたの? 雨降りが来てたら、おぼれちゃう   ところ、だった。 「私は、『機械』に逢うために旅を続けているのです。観測所という所に、雨の日に灯 りを燈す『機械』があると聞いて、海岸沿いに旅をしていたのですが、路銀が尽きてし まって……。」  ちょっと驚いたように、黒い真珠のような瞳を見開いた、娘。  その驚きの様子に、おそらく、『機械技師』もここを訪ねて来たのだと、旅人はおぼ ろげながら推測した。  そんな旅人の思考をよそに、少しくすりと不器用に微笑んで、娘は応えた。   風読みの観測所に、ようこそ。わたし、風読みと一緒に住んでいる、   るな、というの。




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