Moon Song / page10


「ねえ、どうしてこんな真夜中に歩いてるの?」  深い黒をたたえた大きな瞳で、少し警戒して堅くなったな私の顔を見つめて、その子 はたずねました。  微かに、どこか楽しそうな表情を浮かべて。  夜風にさらさらと黒髪を揺らせるその子は、相変わらず綺麗で、輝いて見えました。  藍色の帳が降りて、昼間とは違うひそやかな影と気配に包まれた街区のなかで、より いっそう神秘的な色をまとっているようでした。  でも、夜の自由な空気の中で出逢ったその輝きは、学舎で遠くから目にした時みたい にまぶしすぎて気後れするような風ではありませんでした。  むしろ、何だかこの夜を静かに照らすような、優しい輝きのような気がして。  だから、私は素直に、その子の問いかけに答えたのでした。 「私、夜が好きだから。」  はじめは、そうぽつりと小声で呟いて、少しずつ言葉を継ぐようにして。 「夜の空気の中、ひとりでおさんぽすると、何だか息苦しさがとれる気が、するの。」  そんな私の呟きめいた言葉に、その子は一瞬驚いた表情を浮かべました。  そして、ふわりと本当に嬉しそうに微笑んで、こんな風に言ってくれたのでした。 「じゃあ、わたしと同じだね。わたし達一緒なんだ。」  そう言って、その子は遠い夜天を見上げて、夜のひそやかで優しい空気を、自分の輝 きのなかにとりこむように、すうと深く息を吸いました。    そうして、両手を伸ばして、楽しそうにくるくると廻るのでした。  白くてしなやかな腕で、円の軌道を空気に描いて、さらりと夜風に身体をまかせるよ うにして。 「わたし、ミチルって言うの。あなたは?」  そんなミチルの綺麗な姿に少し見とれながら、私はぽつりと自分の名前を呟きました。 「いい名前、だね。ねえ、ちーちゃんって呼んでもいい?」  そのまま、私の手をぎゅいと握って、街灯が点々と円い明りを落とす舗道を軽く駆け 出して。 「ねえ、ちーちゃん、おつきさま、見にいこうよ!」  私と一緒にいて手を握っていることを、本当に嬉しそうに微笑んでた、ミチル。  夜の散歩道でそんな風に出逢ってからずっと、ミチルは私にとって、強くて優しい明 りを燈す、大切なおつきさまだったのです。




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