「ねえ、どうしてこんな真夜中に歩いてるの?」
深い黒をたたえた大きな瞳で、少し警戒して堅くなったな私の顔を見つめて、その子
はたずねました。
微かに、どこか楽しそうな表情を浮かべて。
夜風にさらさらと黒髪を揺らせるその子は、相変わらず綺麗で、輝いて見えました。
藍色の帳が降りて、昼間とは違うひそやかな影と気配に包まれた街区のなかで、より
いっそう神秘的な色をまとっているようでした。
でも、夜の自由な空気の中で出逢ったその輝きは、学舎で遠くから目にした時みたい
にまぶしすぎて気後れするような風ではありませんでした。
むしろ、何だかこの夜を静かに照らすような、優しい輝きのような気がして。
だから、私は素直に、その子の問いかけに答えたのでした。
「私、夜が好きだから。」
はじめは、そうぽつりと小声で呟いて、少しずつ言葉を継ぐようにして。
「夜の空気の中、ひとりでおさんぽすると、何だか息苦しさがとれる気が、するの。」
そんな私の呟きめいた言葉に、その子は一瞬驚いた表情を浮かべました。
そして、ふわりと本当に嬉しそうに微笑んで、こんな風に言ってくれたのでした。
「じゃあ、わたしと同じだね。わたし達一緒なんだ。」
そう言って、その子は遠い夜天を見上げて、夜のひそやかで優しい空気を、自分の輝
きのなかにとりこむように、すうと深く息を吸いました。
そうして、両手を伸ばして、楽しそうにくるくると廻るのでした。
白くてしなやかな腕で、円の軌道を空気に描いて、さらりと夜風に身体をまかせるよ
うにして。
「わたし、ミチルって言うの。あなたは?」
そんなミチルの綺麗な姿に少し見とれながら、私はぽつりと自分の名前を呟きました。
「いい名前、だね。ねえ、ちーちゃんって呼んでもいい?」
そのまま、私の手をぎゅいと握って、街灯が点々と円い明りを落とす舗道を軽く駆け
出して。
「ねえ、ちーちゃん、おつきさま、見にいこうよ!」
私と一緒にいて手を握っていることを、本当に嬉しそうに微笑んでた、ミチル。
夜の散歩道でそんな風に出逢ってからずっと、ミチルは私にとって、強くて優しい明
りを燈す、大切なおつきさまだったのです。
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