Moon Song / page16


 さら、さら。 さら、さら。  歩くたびわずかに高まってゆく、くりかえしし続く波の旋律。  その海の波と同じように、私もくりかえし、くりかえし、そんな想いを返信し続けて。  そんなふたつのパルスが、満ち潮のように高まった、その時でした。  ひときわ大きな乾いた丘を越えた、その向こうの砂浜に、シグナルのように。  夕暮れの低く紅い輝きに照らされて、その儚げな細い茎と葉をアンテナのように菫色 の空へと向けた月読草の群生が、ぽつりと佇んでいました。  そうして、その中心にひときわすらりと綺麗に立って、海風にさらりと黒髪をゆらす、 ただひとりの、人影。 「ミチル!」  砂で疲れた足がもつれるのも構わず、私は駆けました。  私の声に気づいてふわりと振り返った、大切なミチルのもとに。 「よかった、ちゃんとわたしのパルス、ちーちゃんに届いたんだね。」  やっとの思いで追いついた私に、少し首を傾げて、嬉しそうに瞳を細めて。 「ミチル、どうして……!」  想いがあふれて言葉が出せない私の頭を、そっと撫でながらミチルは答えました。 「実験したかったの。その星間ラジオを通じて、ちゃんとちーちゃんと繋がるか。」  そうして、私をなだめるように、ふわりと微笑んで。 「ごめんね、ちーちゃん。おつきさまが見えたら、ちゃんと話すから。」  それから、私達はふたり並んで月読草が咲くのを、じっと待ち続けました。  群青色の紙片から始まった、長かった一日の光がやがて薄れてゆき、移民星の空がほ のかな紅色をおとした菫色から、淡い群青色へと変わりゆくのを眺めながら。  おつきさまを待っている間、私も、ミチルも、言葉も交わしませんでした。  でも、言葉はなくとも、すぐ隣にミチルがいてくれるだけで、安心して。  はじめて出逢ってから、ずっと一緒だったから、もう当たり前のように思っていたこ の安らかさが、何だか抱きしめたくなるほど、大切に思えるのでした。 「ほら、ちーちゃん、はじまるよ。」  そんな私のもの思いを解くように、ミチルが月読草の群生を差しました。




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