さら、さら。 さら、さら。
歩くたびわずかに高まってゆく、くりかえしし続く波の旋律。
その海の波と同じように、私もくりかえし、くりかえし、そんな想いを返信し続けて。
そんなふたつのパルスが、満ち潮のように高まった、その時でした。
ひときわ大きな乾いた丘を越えた、その向こうの砂浜に、シグナルのように。
夕暮れの低く紅い輝きに照らされて、その儚げな細い茎と葉をアンテナのように菫色
の空へと向けた月読草の群生が、ぽつりと佇んでいました。
そうして、その中心にひときわすらりと綺麗に立って、海風にさらりと黒髪をゆらす、
ただひとりの、人影。
「ミチル!」
砂で疲れた足がもつれるのも構わず、私は駆けました。
私の声に気づいてふわりと振り返った、大切なミチルのもとに。
「よかった、ちゃんとわたしのパルス、ちーちゃんに届いたんだね。」
やっとの思いで追いついた私に、少し首を傾げて、嬉しそうに瞳を細めて。
「ミチル、どうして……!」
想いがあふれて言葉が出せない私の頭を、そっと撫でながらミチルは答えました。
「実験したかったの。その星間ラジオを通じて、ちゃんとちーちゃんと繋がるか。」
そうして、私をなだめるように、ふわりと微笑んで。
「ごめんね、ちーちゃん。おつきさまが見えたら、ちゃんと話すから。」
それから、私達はふたり並んで月読草が咲くのを、じっと待ち続けました。
群青色の紙片から始まった、長かった一日の光がやがて薄れてゆき、移民星の空がほ
のかな紅色をおとした菫色から、淡い群青色へと変わりゆくのを眺めながら。
おつきさまを待っている間、私も、ミチルも、言葉も交わしませんでした。
でも、言葉はなくとも、すぐ隣にミチルがいてくれるだけで、安心して。
はじめて出逢ってから、ずっと一緒だったから、もう当たり前のように思っていたこ
の安らかさが、何だか抱きしめたくなるほど、大切に思えるのでした。
「ほら、ちーちゃん、はじまるよ。」
そんな私のもの思いを解くように、ミチルが月読草の群生を差しました。
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