その白くて細い指の先に、ぽん、ぽんと、夕暮れの街区に灯りが燈るように。
もう夕闇の空と、さざめく海の境界がひとつになりそうなほどに、群青の帳が落ちた
この海岸に、淡くて黄色い燐光が、ひとつ、咲きました。
ひとつ、また、ひとつ。
波の調べを聴き取るように、見えない遥か高みに昇るおつきさまと、波長を合わせて。
やがてふたりの視界いっぱいに、あたたかなおつきさまの輝きが、満ちあふれました。
「きれいだね、ちーちゃん。」
たとえ見えなくても、顔をあげて、自分を照らしているはずのおつきさまに淡い燐光
の花びらで応える、月読の草達。
その強くて優しい輝きで、絶え間なく続く波間を、ふたりを微かに照らして。
そんな月読草に無邪気に笑いかけながら、軽くうたを口ずさみながら、嬉しそうにく
るくる廻ってステップを踏む、ミチル。
私は、まるで本当のおつきさまを見上げる月読草のように、ただずっと、そんなミチ
ルを見つめていて。
そうして、海岸に灯りを燈す無数のおつきさまたちを、しばらくの間、私達はことば
もなく見つめていました。
やがて、電池が切れたように、きれいな回転をぴたりと止めて、私の瞳を見つめて。
静かに、ミチルは話し始めました。
「私、この移民星を離れることになった。また両親が転勤になったの。」
ずっと心の何処かで抱えていたあいまいな不安が、ミチルの言葉として現実になって。
私は、何も言葉にすることができずに、小さく息を飲みました。
「最初は、ちーちゃんと離れるのが嫌で嫌で、泣き叫んだ。でも、ふと月読草のことを
思い出して、何だか情けなくなった。」
「だから、わたしの星間ラジオを通じて、ちゃんとちーちゃんに私のパルスが届くか試
したかったんだ。見えなくてもちゃんと届くなら、わたしも月読草のように、顔をあげ
て咲いてゆけるって、思って。」
そうして、両手を軽くひざにおいて、にっこりと私に微笑みながら。
「ちーちゃんは、わたしの大切なおつきさま、だから。」
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