Moon Song / page6


 ザザッ、ザザッ、ザザッ。  銀色のか細いアンテナは、何処かから送られた電波を受け取ることもなく、スピーカ ーからざらついたノイズを繰り返し鳴らすばかり。  学舎の門柱にもたれたまま、私は小さくため息をついてラジオの電源を切りました。  『私の、大切な月へ。』  彼女の宝物だった星間ラジオを添えて私に送られた、ミチルの言葉。  「月」が私を指すとしても、どうして私が故郷の星を巡る衛星なのか。  そんな言葉と一緒に、どうしてこの小さな宝物の機械を私の机に潜ませたのか。  結局私は、ミチルの残したそんな謎かけになす術もなく、こうしてためいきをついて いるのでした。  微かな憧れを覚えながら、あれだけ彼女と一緒に過ごしてきたというのに。  それでも、心のうちで、何かを忘れているようなぼんやりとした感覚と、微かな不安 のシグナルだけが小さく灯を燈し続けていて。  それが、余計に私のいらだちと焦りをつのらせるのでした。  情けないことに、この時点では、私は全然気づいてはいなかったのでした。  "moon"という言葉で記された、「月」という衛星。  それが、彼女が小さい頃からよくうたっていた、あの「おつきさま」だということに。  『わたしの、大切なおつきさまへ。』  ミチルは、あの群青色の紙片で、そう私に言い残してくれたのです。  私にとってはずっと、ミチルこそが、おつきさまだったというのに。    *  そんな風に、しばらく門柱にもたれて考えを巡らせていた私は、取りあえずミチルの 部屋に行ってみようと、降参して歩きだしたのでした。  とっておきの謎かけを解けなかった私の顔を見て、悪戯っぽくくすくす笑うのか、そ れともふてくされてそっぽを向くのかは判らなかったけど。  それでも、今は早くミチルに会いたい。  まだ胸のうちに残る微かな不安の灯火が、そんな風に私をかきたてたのです。




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