ザザッ、ザザッ、ザザッ。
銀色のか細いアンテナは、何処かから送られた電波を受け取ることもなく、スピーカ
ーからざらついたノイズを繰り返し鳴らすばかり。
学舎の門柱にもたれたまま、私は小さくため息をついてラジオの電源を切りました。
『私の、大切な月へ。』
彼女の宝物だった星間ラジオを添えて私に送られた、ミチルの言葉。
「月」が私を指すとしても、どうして私が故郷の星を巡る衛星なのか。
そんな言葉と一緒に、どうしてこの小さな宝物の機械を私の机に潜ませたのか。
結局私は、ミチルの残したそんな謎かけになす術もなく、こうしてためいきをついて
いるのでした。
微かな憧れを覚えながら、あれだけ彼女と一緒に過ごしてきたというのに。
それでも、心のうちで、何かを忘れているようなぼんやりとした感覚と、微かな不安
のシグナルだけが小さく灯を燈し続けていて。
それが、余計に私のいらだちと焦りをつのらせるのでした。
情けないことに、この時点では、私は全然気づいてはいなかったのでした。
"moon"という言葉で記された、「月」という衛星。
それが、彼女が小さい頃からよくうたっていた、あの「おつきさま」だということに。
『わたしの、大切なおつきさまへ。』
ミチルは、あの群青色の紙片で、そう私に言い残してくれたのです。
私にとってはずっと、ミチルこそが、おつきさまだったというのに。
*
そんな風に、しばらく門柱にもたれて考えを巡らせていた私は、取りあえずミチルの
部屋に行ってみようと、降参して歩きだしたのでした。
とっておきの謎かけを解けなかった私の顔を見て、悪戯っぽくくすくす笑うのか、そ
れともふてくされてそっぽを向くのかは判らなかったけど。
それでも、今は早くミチルに会いたい。
まだ胸のうちに残る微かな不安の灯火が、そんな風に私をかきたてたのです。
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