そんな風に、しばらく門柱にもたれて考えを巡らせていた私は、取りあえずミチルの
部屋に行ってみようと、降参して歩きだしたのでした。
とっておきの謎かけを解けなかった私の顔を見て、悪戯っぽくくすくす笑うのか、そ
れともふてくされてそっぽを向くのかは判らなかったけど。
それでも、今は早くミチルに会いたい。
まだ胸のうちに残る微かな不安の灯火が、そんな風に私をかきたてたのです。
人通りの少ない舗道、せわしなく行きかう大人達、静かな住宅街の路地道。
本来なら学舎に居るはずの時間の街並みは、こうして歩いていると、いつもとは何処
か違った空気を纏っているように感じます。
まるで私達、水槽から抜け出した魚みたいね。
そんな風に、ミチルは笑いながらいつも言っていました。
たぶんミチルにとっては、日々を暮らしてゆく学舎での時間は水槽のようなもので。
たまに日常からかけ離れた、魚にとっては広がる海のような時間に触れないと、きっ
と息苦しくなってしまうのだろうと、思います。
歩きながら、そうぼんやりと考えていたら、ふとこんな思いが頭をよぎりました。
子供の頃私やミチルが夜の街をふらりと散歩していたのも、もしかしたら同じことだ
ったのかもしれない、と。
幼いながらも、無意識に海を求めて水槽を抜け出した、小さな魚達。
そんなふたりだからきっと、夜の散歩道で出会ってから、ずっと友達でいたのかも知
れない。
二匹で一緒に、自由な海を目指しながら泳ぎ続けて。
私は思わず、ミチルの星間ラジオを、そっと握り締めました。
今はまた、私ただ一匹になってしまったのだ、という心細い思いに包まれて。
ミチルが消えてから、何故だかこんな不安や心細さばかりが、胸を掠めてしまって。
今思うと、もしかしたらこの時すでに、私は握り締めた小さな機械のアンテナで、彼
女からのパルスを受け取っていたのかも、しれません。
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