ミチルが残した伝言を心に抱いて、私はぼんやりと街角を歩きました。
まるで「おつきさま」という言葉でつくられた、記憶の迷路の奥へとたどるように。
こつ、こつ、こつと、私の靴が舗道をたたく音だけが耳に入ってきます。
その靴元から伸びる影は、午後の傾きゆく陽射しを受けて、少しずつ長くなっていました。
まだ思いだせはしないけれど、この「おつきさま」という言葉が、確かにミチルと過
ごした記憶の片隅に燈っているのだけは、私にも判っていました。
その記憶を、無意識に歩くことで思い出そうと試みたのは、確実に、私のアンテナも
ミチルの想いを受信し始めていたのだろうと、思います。
すこしずつ、すこしずつ、彼女の送る電波を小さなラジオを通じて、受けとめて。
はじめに思い出したのは、彼女がこんな風に街を散歩している時にうたっていた、お
つきさまのうたでした。
それはたしか、こんな風な歌詞でした。
心はまわる お月さま
だから 見えなくなっても 心配しないでいい
時がめぐれば また輝きがかえるよ
心の水面へと、ぽつり、ぽつりと浮かび上がってくる、彼女のうたの言葉。
そのうたが、微かな灯となって、私を幼い日の記憶へと導いてゆきました。
夜の散歩のさなかで、はじめてミチルと逢った、幼い日の記憶へと。
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