海の娘は、櫂を漕ぐ手をおろして、そっとあおむけに寝そべりました。
「船を漕ぐのも、ちょっと不便だけど楽しいわね。」
群青の水彩をのばすように薄らいでいく暁の空には、ふたつの惑星だけ。
冬の夜を彩るオリオンやシリウスは、もう、はるかかなた。
緩やかに凪いだ海に浮かんで、娘は夜明けを待っていました。
そっと耳を澄ますと、過去から未来へと紡ぐ、絶え間ない波の調べ。
それは、旅立つ娘へと届くよう、仲間達の贈る歌声でした。
「よかった。ちゃんと聴こえる。」
優しく励ますその調べに身をまかせて、娘はそっと呟きました。
旅立ちの自由と引き換えに、波の言葉は、もうわからないけれど。
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