光の人






 ぽん、ぽん、ぽん。

 玻璃製の保存プレートに、色素棒を持った白い指が色を描く。
 その度に、まるで管制塔の信号のように、透明なプレートに小さな光が灯る。


 姉はいろいろと口を挿みながら、私は何も言わないままで、じっとその信号が
 少しずつドームの内装を描いてゆくのを見つめている。


 「絵を描くところを人に見せたことないから……何だか不思議な気分ね。」

 あの人は、少しはにかんでそう言いながら、耳を澄ませて、絵を描き続ける。

 
 あの夜の翌晩、私達はあの人が『惑星館』を描くのにずっと付き添っていた。

 あの人は、こうして昔の建物や場所を絵に描きながら、各地を旅してきたのだと、
 描きながら、ちょっと照れくさそうに話してくれた。

 いろいろな場所のこと、いろいろな昔のことを教えてくれながら。

 
 ただ不思議なのは、その描き方だった。
 あの人は、今はもう存在しない、昔の姿を、硝子のプレートに記してゆくのだ。


 この時も、ドームの丸い床面の中央に、蒼い金属製の機械の形を記していた。

 ドームの天頂に、星座を映し出すその姿を。


 「見えるの?」

 不思議そうな表情を隠さずに、姉が訊く。


 「ううん、聴こえてくるの。目には見えなくて……。」

 ぽん、ぽん、と、連続して蒼い光。

 「だから、本当に『惑星館』がこんな姿だったなんて確証は何処にもないのよ。」



 「……でも、機械、本当にこんな感じだったなら嬉しいな。」


 双つの球体から成り、回転盤の上でぽん、ぽん、と天頂へと星を映す蒼い機械。
 描かれたその姿は、丸みの中に何処か愛嬌があって、私も姉と同じ意見を持った。

 まるで、金属製の古代生物のような、そんな機械。


 「ありがとう。」


 少し照れくさそうで、本当に嬉しそうな、あの人の微笑み。

 この時の顔が、今でも一番晴れやかだったような気がする。








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