光の人






 やがて、私達は、街の外の小さな丘へと辿り着いた。
 石造りの階段が、その頂の広場へと伸びている。

 何も話さないままのあの人について登った、円形の広場。

 その縁の、矩形に切り取られた石が点々と並ぶ片隅を、あの人は静かに指した。


 
 「すごい……。こんなだったなんて……。」

 軽やかに、一足先にその石に登った姉が、立ち尽くしたままで呟く。

 天の上にではなく、丘の麓の大地に、遠く、遠くへと拡がって。


 そこに、私達の星座はあった。



 紅色、瑠璃色、銀色、翡翠色。
 宝石の箱を漆黒の床に撒いたように、色とりどりに明滅する、幾つもの、星達。

 彷徨うように、惑うように、動きながら。

 夜風とフィルタに揺らいで、明滅しながら。


 整然と並ぶ街灯の列、流れる乗り物のライト、夜通し目覚めている家の電燈。

 街に、あふれんばかりに灯っていた、人の作った明かり。
 それは、遠い街外れの丘の上へと、地上の星座となって、光を放っていた。

 絶えないように、届くように。



 「空じゃ、誰も見てくれないから、もう、みんな、降りてきちゃったのかなぁ……。」
 姉が、街の光を見下ろして、口に手を当てたままで、夜風に呟きをのせる。


 「なんで、こんなに綺麗なのよ……。」

 夜風に絵を描くように、透き通った大粒の光をこぼして。



 私は、石壁に座って、ただじっと地上の星を見つめていた。
 いつも、ひときわ強く輝くように明るいはずの、姉の呟きと涙を静かに聴きながら。


 「……『惑星館』だ。」

 無意識に、私は言葉を夜気に浮かべた。


 街の無数の光は、迷走するように、様々な軌道を描いている。
 不安定で、怯えるように、星座の形を留めることなく。

 それは、たくさんの、たくさんの惑星の光のように思えた。


 浅い夢の中で、私がひとりぼっちで廻っていたように、街の無数の人々も。

 消えた天の恒星の光の代わりに、必死に自らの光を放ちながら廻り続けて。

 その惑星の光が、フィルタの巨大なドームの床で、無数の星座となって輝いている。



 私の夢のように、不安にじっと膝をかかえながら。







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