光の人






 「あの星が滅びたのって、遥か数億年も昔のことなんですって。」


 独り言のように紡がれた言葉の意味に、驚いて、私はあの人へと振り向いた。


 「あの光はね、ずっとずっと遠くから、何億年も独りで旅してきたの。」
 地上の星座は見ないで、夜天にただ一つ輝く、滅びた星の光を見あげたままで。


 「誰かに届くために……、もう、星はとっくの昔に滅びちゃったのにね。」

 今は見えない、天上の星座を見上げる、あの人の横顔は、どこか寂しそうで。

 
 「私ね、聴こえるのよ。昔はそこにいた、生物や、建物や、星の歌……。」

 淡々と、切々と、天上に向けて紡がれる、つぶやき。


 やがて、あの人は私と姉の間に座って、その細い手で、私達の手をそっと取った。


 「……ごめんなさい。少しの間だけ、こうさせて……。」


 あたたかい、繋がった手のぬくもりが、時を刻む鼓動が、私の不安をなぐさめる。


 私は、そっとあの人の横顔を見た。
 ようやく、地上の星座を眩しそうに見つめながら、優しい、寂しそうな想いを浮かべて。


 聴こえるか聴こえないかの小さな声で、あの人は私の問いに応えた。



 その瞬間、不意に私の耳に、瞳に、声が聴こえた。
 地上の星座となって輝く、無数の街の明かり、その一つ一つの光の想いが重なって。


 ここだよ、ここにいるよ、私はここにいるよ、と。


 ちらちらと瞬いて、まるで信号を空に送っているように。



 「もし街からここが見えたら、私達もあんなきれいに見えるのかなぁ。」
 少し落ち着いた姉が、そっと言葉を浮かべた。


 「見えるよ、きっと。」

 ぽつりと、応える私。


 「……ばっかみたい。」


 街からは見えない、みっつの星が繋がった、丘の上の星座。

 丘からは見えない、遠い距離を越えて繋がった、天上の無数の星座たち。


 滅びた星の光が届いた夜に、瞬きながら、光の信号を送っていた。


 ここだよ、ここにいるよ、と。







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