光の人






 明滅を繰り返す、色とりどりの店の広告、粒子の様に流れるエアタクシーの紅い尾燈。
 夜の街路にはまだ数多の光達が溢れている。
 まるで、消えそうな火に、むやみに可燃性の金属を投げ込んでいるように。

 
 「そっか、超新星って、星が死ぬ時の光なんだ。」

 そんな蒼や紅色の明かりと戯れる様に、弾んだ足取りで歩みを進める姉の声。

 ぽんぽんと跳ねる、歩道に映る夜の影ぼうし。

 
 「じゃあ、いずれ太陽が死ぬ時なんて、きっと見ものでしょうね。」


 「そんな訳ないだろうっ!」
 はしゃいだ姉の言葉に何故だか妙にいらついて、私は大声で言い放った。

 つま先をぴたりと地面に止めて、一瞬目を丸くする姉。


 「……ごめん。」

 「ううん、でもさ……」
 また軽やかな足どりに戻って、くるりと振り返って、少し穏やかな笑みで。


 「ばっかみたい。」




 街明かりの輝きは、ぼんやりとドームの様に、生活する私達を覆っている。
 その薄い明かりの障壁に追いやられて、天上に、小さく切り取られた夜の闇。

 そこには、はるか昔に鉱石の様に輝いていたという星達は、何処にもいない。


 今はただ、それを惜しむように、滅びた星の息づかいだけが灯っている。

 かすかな、かすかな光を残して。



 ぽっ、と浮かんでは流れてゆく、店の飾り棚の明かりが薄くなった街外れ。

 そこに、幾つもの昼と夜に洗われ、灰白色になってぽつりと佇む小さなドーム、
 それが、この夜の私達の目的地だった。


 ドームの表面は、ずっと昔の脆い合成繊維で作られていて、もうあちこちで綻びを
 さらしている。

 中心付近の天井はとうに抜け落ちていて、まるでいびつに切り取られた、
 半円球の発泡体に見える。

 その姿は、何処か、ごく稀に夜天にぼんやりと現れる欠けた月が沈んでゆく様にも
 似ているように思える。


 昼間は無表情なその白い曲面に、時折、広告の紺や翠色に輝く飾り文字が逆さに
 曲がって映り、くるくる変わる不思議な映像をその身に宿している。


 それが、祖父の残した『惑星館』だった。


 「ほら、はやくあけてよ。」
 ぼんやりドームを眺めている私を急かす、姉の弾んだ声。


 私はため息を一つついて、ポケットから真鍮のプレートキーを取り出す。

 ドームの一角に突き出た扉は、プレートに刻まれた符号を読み取ってかちりと開いた。







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