光の人






 半円球のごくひとかけらしかない、ひんやりした小部屋。

 昔は、このドームにあった機械を動かす、制御室だったと聞いた。
 でも、今はもうその面影もなく、私達姉弟の秘密の遊び場所となっている。


 「あ、けっこうよく見えるよ。」

 部屋の片隅に置かれた、金属製の長い筒状の古い道具。
 その一方の端に目を当てて、落ちた天井の裂け目から、早速超新星を眺める姉。


 「何だか、ぼんやりしてて、柔らかい光……。きれいだよ。」

 装飾のない、冷たい滑らかな金属の筒の両端に、硝子のレンズをはめこんだ、
 夜空を眺めるこの道具は、昔からこの『惑星館』にあったものらしい。


 ただ、初めてこれを見つけた時にはもう壊れていて、覗いても何も見えなかった。

 それを、何をどうやったのか、姉が分解して調べながら直してしまったものだ。

 普段は明るいだけが取り柄の姉だが、どうも、物を造ったり、物から何かを
 感じたりすることにかけては奇妙な才能を持っている、らしい。


 もっとも、直した所でこの道具で夜空を眺めてみても、せいぜいたまに月が
 ぼんやりと見えるだったので、姉弟二人してがっかりしたものだ。



 「きっと、自分が消えるところを、誰かに見て欲しかったんだろうね。」


 古い道具は、その光を二枚の硝子を透過させて拡大して、この部屋に届けている。


 「あんたは見てあげないの?」
 道具に興味を示さずぼんやりしてた私に、くるりと振り向いて聞いてくる。


 「……いいよ、僕は。」

 「そっか。」


 その声は何時になく、そっけなくて、優しい気がした。



 何故だか、超新星を見る気にならないままで、私はぼんやりと想いだしていた。
 『惑星館』と呼んでいた、古びたこの建物のこと。

 そして、『惑星館』の鍵を、姉ではなくこの私に託した祖父のことを。








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