「この建物にはなぁ、ずっと昔、星座を見せる機械があったんだよ。」 欠けた円球の天井から垣間見える夜天を見上げながら、祖父は呟いていた。 「せいざ?」 「せいざってなあに?」 「うん。」 姉弟の不思議そうにきょとんとした瞳に思わず微笑みながら、 祖父はわかりやすいようにと、ゆっくり話してくれた。 「君達が生まれるより、ずっとずっと昔はね、夜になると空には、 恒星という太陽の仲間達がたくさん、たくさん輝いているのが見えたんだ。」 「……それって、すっごくまぶしくて眠れなかったでしょうね。」 瞳をまんまるにして洩らした姉の言葉に、思わず笑いをこぼして応える。 「いやいや、太陽と同じといっても、ここからずっとずっと遠くの星達だ。 だから、昔は夜空は深い闇の中に、小さな光の鉱石を散りばめたみたいだった。」 まるでその恒星達が見えるかのように、眩しそうに目を細める祖父。 「その星達を線で繋ぐと、たくさんの古代の生物達が浮かび上がって見えた。 それが星座だ。」 「……じゃあ、宇宙には、たくさんのいなくなった生物達が住んでいるんだね。」 「そうだね。そうとも言える。」 私の言葉に応えながらすっくと立ち上がって、ドームの中央にゆっくり歩く。 「この位置に、その星座を再現する大きな機械があった。 観にくる客は少なかったそうだけど、ドームの天井に映る星座達は、 本当にきれいだったそうだよ。」 「星座、見てみたいなぁ。もし無理なら機械でもいいのに……。」 夜天に住む古代の生き物達。私はその空想に魅了されて、ぽつりと呟いた。 「……いつかきっと見えるようになる。わしはそう信じてる。」 そう言って、立ったまま祖父は不思議な言葉を唱え始める。 星座のお話をしてくれる時、いつも口にする言葉。 不思議なアクセントで、切れ切れの文章で、どこか、切実な声で。 光の人 ひかりの人 ここへきて 光の人 光をさしのべて この巨きな暗がりの外へ 輝きで みちびいて 「光の人が来てくれれば、また星座を見れるようになるの?」 「……さてなぁ。」 年老いた星 亡びてゆく星 青白い最後のまたたき 「ねぇ…何かドームの方から聴こえてこない?」 「え?」 私は我に返って聞き返した。まだ、想いだしていた言葉が頭の中に響いている。 光年の時間をかけてとどく 星ぼしの おしえ いや、そうではなかった。その言葉は、現実にたった今ドームの中から聴こえてくる。 しかも、澄んだ女の人の声で。 「…これって、おじいちゃんのあの言葉……。」 そうぽつりと呟くと、姉はためらいもなしに、ドームへと続く扉を開けた。 |