光の人






 ようやく賑わいも少し静まって、流れる夜の空気が街のほてりを冷ましてゆく。


 「ねえ、あの人って、おじいちゃんが言ってた『光の人』だよ、きっと。」

 跳ねるように、帰り道にくるりと輪を描いて振り向いて切り出す。


 「超新星の夜に、『惑星館』にいて、おじいちゃんの言葉知ってて……。」
 くるんと背を向けて、上向き加減で、声で言葉を綴り続ける。

 「だって、あの人、すごく綺麗だったもの。……星座、見えるといいね。」


 「偶然だよ。」

 私は姉のはしゃいだ声に、横を向いて呟いて水を差す。


 「じゃあ、何であんた、あの人が絵を描くの許可したのよ?
  普段は知り合いだって絶対にあそこに入らせないのに。」

 回転盤のように、またくるりと振り向いて問い詰める姉。


 「何でだろうね。たぶん、気まぐれだよ。」
 悔しいことに、私は姉の問いに対する明確な回答を返すことができないでいる。

 心の何処かでぼんやり影法師を落とす不安、微かな、すがるように灯る期待。



 「ばっかみたい。」

 姉弟の声が、同時に深夜の帰り道に響いた。



 私は、ふと夜天に、微かに光る超新星を見つめる。

 あの朧な光が届いたのを見つけた時、私は誰よりも期待に胸を躍らせたのだ。
 たぶん、姉よりもずっと。

 水色の通信片が、あの光の正体を超新星だと伝えるまでは。


 厚い灰青色の大気と、制御フィルタを抜けて、なお届いた、微かな、微かな光。


 でも、その光は、既に滅びた星の光でしかなかったのだ。








→Next

ノートブックに戻る