時の駅
「音楽って、どんな風に伝わって行くと思う?」 彼女は小人の娘の問いに直接は応えずに、しばらく間を置いてから逆に優しく尋ね返した。 「どんな風って?」 「えっと、音楽が広がって行く感じを、手で示すとどんな風になるかしら?」 ちょっと考え込んだ後に、娘はゆっくりと指を動かした。 小さな指が、娘の手元からゆっくりと螺旋形を描く。くるっ、くるっとその螺旋は小さく宙 を舞い、少しずつ夜空へと伸びて昇って行く。 「あたり。」 彼女は娘の後を追って、レールへと跳ねるように軽く跳び降りた。遅れてふわりと揺れる、 短い栗色の髪。 「ふたつの想いや記憶や音楽ってね、二重の螺旋を描きながら伝わってゆくの。そうして、お 互いに想いを伝え合って、ずっとずっと繋がってゆくのよ。私も、あなたも、もちろんそのレ ール達もね。」 このひとときの間にも螺旋を描いて伝わる、小人の娘と、彼女の想い。 二人の手のひらで、ゆっくりと秘密は解けてゆく。 やがて、彼女はそっとその耳をレールに付けて言った。 「ほら、聴こえてくるでしょう?」 彼女に倣って、娘も小さな耳をレールに押し当てる。冷たい金属の感触、その奥から微かに 伝わってくる絶え間ない規則正しい振動。それはあたかも体を流れる血液の様にも聴こえる。 そして、それは少しずつ大きくなってくる。 「さびしくないのかな?」 そっとレールから耳を離して、ぽつりと娘が呟いた。 彼女は娘のそばにかがみこんで、二本のレールの間に規則正しく敷かれた樹の板に触れた。 「だから、私は歌を集めているのよ。さびしくないようにね。」 「じゃあ、師匠もさびしくないの?」 訴えるように発せられる、あまりにも飛躍した娘の問い。 彼女は、その問いがくるのをわかっていたかのように、力づける様に微笑んで応えた。 「だって、あなたと繋がっているんですもの。」 「……やっぱり、よくわからない。」 |