螺旋の樹の物語 Rail 2 Station 2

時の駅


                                              
「音楽って、どんな風に伝わって行くと思う?」


 彼女は小人の娘の問いに直接は応えずに、しばらく間を置いてから逆に優しく尋ね返した。

「どんな風って?」

「えっと、音楽が広がって行く感じを、手で示すとどんな風になるかしら?」

 ちょっと考え込んだ後に、娘はゆっくりと指を動かした。
 小さな指が、娘の手元からゆっくりと螺旋形を描く。くるっ、くるっとその螺旋は小さく宙
を舞い、少しずつ夜空へと伸びて昇って行く。

「あたり。」
 彼女は娘の後を追って、レールへと跳ねるように軽く跳び降りた。遅れてふわりと揺れる、
短い栗色の髪。


「ふたつの想いや記憶や音楽ってね、二重の螺旋を描きながら伝わってゆくの。そうして、お
互いに想いを伝え合って、ずっとずっと繋がってゆくのよ。私も、あなたも、もちろんそのレ
ール達もね。」


 このひとときの間にも螺旋を描いて伝わる、小人の娘と、彼女の想い。

 二人の手のひらで、ゆっくりと秘密は解けてゆく。


 やがて、彼女はそっとその耳をレールに付けて言った。
「ほら、聴こえてくるでしょう?」

 彼女に倣って、娘も小さな耳をレールに押し当てる。冷たい金属の感触、その奥から微かに
伝わってくる絶え間ない規則正しい振動。それはあたかも体を流れる血液の様にも聴こえる。
そして、それは少しずつ大きくなってくる。


「さびしくないのかな?」
 そっとレールから耳を離して、ぽつりと娘が呟いた。

 彼女は娘のそばにかがみこんで、二本のレールの間に規則正しく敷かれた樹の板に触れた。
「だから、私は歌を集めているのよ。さびしくないようにね。」


「じゃあ、師匠もさびしくないの?」


 訴えるように発せられる、あまりにも飛躍した娘の問い。

 彼女は、その問いがくるのをわかっていたかのように、力づける様に微笑んで応えた。
「だって、あなたと繋がっているんですもの。」


「……やっぱり、よくわからない。」




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