螺旋の樹の物語 Next trains depart for

One/カナリヤ


                                              
 研究室からの帰り道に、ふと「星座」のオブジェのある公園に立ち寄ってゆくことが
ある。特に、夜気と眠気が攪拌された、徹夜明けの静かな朝には。


 何時か、教授に金色の巻き毛の娘のことを尋ねてみようと思っている。

 返事は容易に想像はつく。でも、その瞬間の表情だけははかなり見物だろうと思う。

 かくして、僕はモリザワ教授への逆襲の時を密かに覗っている。



  失くした時間だけが永遠になる

  あの人の居ない世界 陽射しは何色だろう



 最近よく、もう一人の僕のことを想う。

 あの小人の娘は、ぜんまいが止まる時、僕達を見てどう感じたのだろう。

 今は、また師匠譲りの高音で言葉を歌に紡げているだろうか。



  人は巡り合って いつか好きになって
  時は短すぎて だけど止まれなくて
  だから一緒にいた 二人で歩いてた
  とても愛しかった とても大事だった
  人は一人きりで 始める旅がある
  人は一人きりで 見つめる夢がある
  だから淋しくなる だから逢いたくなる
  とても愛しくなる とても大事になる



 そして僕は、一人でよく彼女の歌を言葉に紡ぐ。

 歌が忘れられた、この世界の街の上で。


 気候制御のフィルターの目をかいくぐって、濾過された様に澄んだ早朝の風がさらさ
らと流れる。

 風媒花のように、僕の拙い歌が、風にのって誰かの胸のうちに広がってゆくことをそ
っと祈る。



 そして僕は、風を見送ってから街の駅へと降りて行く。

 まもなく動き出す、始発の電車に乗るために。





→Next

ノートブックに戻る