螺旋の樹の物語 Next trains depart for

One/カナリヤ


                                              
  失くしたものを探しに行くよ
  いつか二人で歩いた道を
  時の隙間に忍び込む いたずらな風
  懐かしいあの人の声に聴こえる



 周囲の樹々の枝に切り取られた空から、広場を抜けて森の奥へと風が通り抜ける。

 その風が、時折鞦韆の錆びたチェーンを戯れに揺らしてゆく。

 螺旋の樹の下に抱かれた、その鞦韆の律動に身を任せながら、小人の娘はそっと耳を
澄ませる。



 空気の流れにのったいろいろな和音が、この場所を駈け抜けてゆく。旅を続ける雲の
音、周りの茂みで同じ日々を営む生物の音、今は見えない昼間の月の音。

 葉ずれの音が奏でる、昔ここで遊んだ子供達の記憶。


 そんな沢山の音楽に包まれて、錆びたチェーンの鼓動のようなリズムに揺られながら、
小人の娘は一つの音を聴く。

 胸の内に、切ない程懐かしく響く、ただ一つの歌声を。


「……もう、ひとりでも聴こえる。」


 そっと胸の内を抱くように、両手で体を包んで、ぴょんと鞦韆を降りる。



  胸躍らせた春は駈けゆく
  移る景色をささえきれずに

  言葉なくして眼を伏せる
  あの日の二人
  見つめてたカナリヤは今も歌うよ





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