「どうして、取りにこないのかなぁ……」 丸帽子の日よけの下で、ぽつりと女の子は呟きました。 だんだんと、お月さまを迎えて藍色に染まってゆく空を見上げながら。 「それとも、やっぱり私が、織る数をひとつ間違えちゃったのかしら。」 店先にひとつだけ残った、深い蒼色をした織物を見つめて、女の子はちいさなため息 をもらしました。 「今まで、いくら忙しくたって、そんなこと一度もなかったのに。」 お店の前の砂浜でたまに採れる、「星砂」という星型の結晶を編み込んだ、夜天の色 の織物。 それが、この「月帽子織物店」のたったひとつの商品でした。 女の子が、心を込めて織った織物は、軽くて暖かく、そして何よりとても深くて控え めな瑠璃の色をしていました。 しかも、月明かりを受けると、編み込まれた「星砂」が、その織物の小さな宇宙に幾 つもの星の輝きを燈すのです。 だから、「月帽子織物店」の織物は、村だけでなく遠くの街でも人気がありました。 特に、年に二度の、月祭りの日には。 「これじゃあ、お祭りに間に合わないじゃない……。」 女の子は、村に続く夕空へとちらりと振り向いて、ぼやきました。 |